2024年1月1日以降、自己託送の新規申込の受付が一時停止されました。
「自己託送に係る指針」の改正が計画されていたため、改正後の指針が施行されるまでの期間、現場の混乱を回避するための措置でした。
2024年2月12日に改正された「自己託送に係る指針」では、自己託送の要件が厳格化されています。ここでは、その厳格化の具体的な内容について紹介します。
- 改正の経緯・趣旨
- 厳格化の内容
- 厳格化の適用時期
改正の経緯・趣旨
自己託送とは
自己託送は、自家用発電所有者が発電電気を送配電ネットワーク経由で他の需要家施設に送電する制度です。目的は、自家用発電設備による余剰電力を活用し、電力系統の供給安定性を向上させることであり、自家消費と同様に「再エネ賦課金」の対象外となります。
これまでの自己託送の課題
環境価値と再エネ電気への需要拡大に伴い、再エネ賦課金が課されないことに着目した自己託送が増加しています。しかしこれにより、自家発自家消費の趣旨に反するケースが生じており、課題として取り上げられています。具体的な例としては、他者発電設備を借り受けて自己託送を行い、外部に維持管理を委託するケースや、自己託送で発電した電気を他者に供給する場合が挙げられます。
制度趣旨に反すると考えられる事業イメージ
他者が開発・設置した発電設備を借り受け、名義上の管理責任者になることで自己託送の要件を満たし、実際の発電設備の維持管理を外部に委託するケース
自己託送により送電した電気を自ら消費せずに、需要場所内で密接な関係性のない他者に供給(融通)しているケース
厳格化の内容
4つの厳格化案
4つの厳格化案が検討されてきました。
①発電設備の所有に係る要件
②発電設備の維持・管理に係る要件
③送電する電気の性格に係る要件
④電気の最終消費者に係る要件
厳格化実施の考え方
それぞれの厳格化案は実施されるかどうか、以下の観点で検討されています。
- 要件が明確であること
- 再エネの導入拡大や電気事業制度など制度全体のバランスがよいこと
- 迅速な対応が可能であること
実施される厳格化
①発電設備の所有に係る要件
他者が開発・設置した発電設備の譲渡又は貸与等を受けて、名義上の管理責任者となる場合は自己託送の対象外となります。
自社で開発投資を行い、発電設備の完工に伴って請負契約等に基づく所有権の移転が行われる場合は自己託送対象として認められます。所有権移転型リース契約は自己託送対象外となります。
原則として例外を認めないことを前提としつつ、必要に応じて総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会等で検討の上、判断していくことが示唆されています。
他社が開発・設置した…の“他者”とは
自己託送の契約者である需要家の子会社(完全子会社に限る)が発電設備を開発・設置し、発電開始等に当たって、親会社である需要家が譲渡を受けるケースは自ら設置した設備と同等と捉えられます。それ以外は他者とみなされます。
“完全子会社”とは
子会社の資本の100%を親会社が保有している場合の子会社を完全子会社といいます。子会社が発行している株式を100%親会社が保有している状態です。
厳格化が実施される理由
- 要件が外形的に判別しやすい
- 需要側での再エネ電気のニーズの高まりを受け、需要家主導型のオフサイトPPAへの補助金による支援を実施しており、再エネ活用への影響軽微
- 厳格化対象が明確であり迅速に対応可能
④電気の最終消費者に係る要件
需要場所内でテナント等、自己託送の契約者である需要家と密接な関係にない他者に電気を供給(融通)する場合は自己託送の対象外とされます。
“密接な関係”とは
資本関係があること。資本関係がなくとも、組合を設立し一定の要件を満たすことで密接な関係を持つと見なされます。
厳格化が実施される理由
- 既存要件の延長であり、厳格化対象は明確。迅速に対応可能
- マンション一括受電等の供給形態が認められているように、一の需要場所内における電気のやり取りを行うことそのものは現行の電気事業法においては否定されるものではないが、自己託送においては電気の最終消費者は密接な関係性要件を求めることは適切
現時点では実施されない厳格化
②発電設備の維持・管理に係る要件
発電設備の維持・運用等に係る主たる業務を外部委託している場合には、自己託送の対象外にする案も検討されていました。
“主たる”業務とは
- 発電設備の維持管理(操作、監視、点検、検査、補修等)
- 託送料金・インバランス料金の精算
- 発電量予測・需要量予測(発電計画・需要計画作成)
- 負荷追随供給を行う小売電気事業者への通告・流通費用調整額の精算(小売供給と併用する場合)
再エネ導入には専門的なノウハウが必要であり、全てを需要家が担うことは過大な要求との声もあります。どの業務を自己で実施すべきかを線引きする精査が必要とされています。現時点での厳格化は見送られました。
③送電する電気の性格に係る要件
自己託送制度の趣旨を踏まえれば、発電した電気の全量を発電地点とは別の需要地に送電するケースは想定外で、自家消費を除いた余剰電力分を送電する場合のみ自己託送の対象とする案も検討されていました。
分散型電源の活用が進展していることや、需要家が直接的に再エネ設備の導入を進めるニーズや事例が増加していることを受け、発電した電気の全量を発電地点とは別の需要地に送電するケースを一概に除外することが適切か、さらなる検討が必要です。現時点での厳格化は見送られました。
厳格化が実施された場合の具体的な対応方法
発電設備の所有に係る要件についての具体的な対応方法
自己託送の申込み時に以下の宣誓書の提出を求められます。
- 「他者から譲渡又は貸与等を受けた発電設備ではなく、自ら設置した発電設備であること」の宣誓書
電気の最終消費者に係る要件についての具体的な対応方法
自己託送の申込み時に以下の宣誓書の提出を求められます。
- 一つの需要場所内に電気を使用する他者がいる場合には、「自己託送を実施する需要家」と「電気の使用する他者」との密接な関係を証明する書類
- 「密接な関係を有する電気使用者(他者がない場合は自身)以外に電気の最終消費者が存在しないこと」の宣誓書
厳格化の適用時期
「自己託送に係る指針」が改正された2024年2月12日以降。
2023年の12月末〜改正までの期間は自己託送の新規申込の受付が停止されていたため、2023年の年末までに自己託送の新規申し込みを行っていない場合は厳格化された要件が適用されます。
2024年1月1日以降、自己託送の新規申込の受付が停止されていましたが、改正後受付が再開されているもようです。詳細は所在地の一般送配電事業者(東京電力パワーグリッド等)にお尋ねください。
参考:
自己託送制度及び自己託送に係る指針について | 経済産業省 資源エネルギー庁
第68回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会