2021年11月、自己託送制度が見直され、資本関係等がない第三者が保有する発電設備も一定の要件を満たせば自己託送の利用が可能となりました。この見直しにより、需要家が電力を調達する方法の選択肢が増えましたが、これまで「オフサイトPPA」と呼ばれてきたスキームとの違いが分かりにくくなりました。
「非FIT」「オフサイト」「第三者所有」の太陽光発電の供給スキームを整理します。

前提知識)改正前の自己託送とオフサイトPPA

2021年11月の改正以降、「自己託送」「オフサイトPPA」の違いが分かりにくくなった、と書きましたが、では改正以前はどうだったかをまずはおさらいしておきます。ご存知の方は読み飛ばしてください。

自己託送とは

自己託送とは、遠隔地にある“自家用発電設備”で発電した電力を、別の場所にある工場などへ供給するために、電力系統を介して送電する一般送配電事業者が提供する送電サービスのこと。
“自家用発電”なので、発電設備は自己所有、または資本関係があるグループ企業が所有するものであることなど、「密接な関係」であることが求められました。
自己託送

オフサイトPPAとは

PPAとは、Power Purchase Agreementsの略で、電力販売契約のことを指します。
オフサイトとは「需要地の外」ということですが、発電事業者と需要家が電力の売買契約を締結し、需要地外の再エネ電源による電力を、電力系統を介して需要家へ供給するスキームをオフサイトPPAといいます。
オフサイトPPA

改正前は自己託送とオフサイトPPAをどう使い分けたか

自己所有の発電所から電力を供給し、自家消費する場合は「自己託送」が認められます。
第三者所有の設備からの供給の場合は、自家消費と言えず自己託送が認められませんでした。そのため小売電気事業者を介した「オフサイトPPA」のスキームを利用して供給します。

  自己託送 オフサイトPPA
再エネ賦課金 不要
小売電気事業者介在 不要

自己託送は、オフサイトの発電設備で自家消費するとみなされ、再エネ賦課金の支払い対象外となります。
オフサイトPPAは電力を購入する契約ですので、再エネ賦課金の支払いと、小売電気事業者を介して供給することが必要です。
再エネ賦課金の面で比較すると自己託送が有利となります。

自己託送制度の見直し

企業の脱炭素化への取り組みが広がり、需要家が“遠隔地の再エネ電気を直接調達したい”というニーズが高まりました。
そこで組合を設立し、一定の要件を満たすことで第三者の再エネ設備からの自己託送を可能にする検討が進められました。
その後2021年9月28日(火)〜10月27日の期間でパブリックコメントが行われ、2021年11月18日に公布されました。
参考:電気事業法施行規則の一部を改正する省令案並びに「自己託送に係る指針」の全部改正に対する意見募集の結果について | e-Govパブリック・コメント

自己託送見直しイメージ

組合とは

発電事業者と需要家が共同して設立する「組合」は、どのような組織か、自己託送に係る指針(令和3年11月18日)で以下のような説明があります。

  1. 組合の組合契約書において、この組合が長期にわたり存続する旨が明らかになっていること。
  2. 組合員名簿等に発電事業者および需要家の氏名又は名称が記載されていること。
  3. 組合契約書において電気料金の決定の方法、発電事業者と需要家における送配電設備の工事費用の負担の方法が明らかになっていること。
  4. 組合員が新設した、自ら維持し、運用する再エネ発電設備による電気の取引であること。

第三者所有なのに自己託送?

遠隔地にある第三者所有の設備から調達する自己託送が認められることになりましたが、それは需要家が発電事業者から電力を購入することになるので、もはや「オフサイトPPA」と言ってもいいでしょう。小売電気事業者を介したオフサイトPPAとどう違うのか、改正によって分かりにくくなったのはこの点です。次項以降で詳しく違いを紹介します。

非FIT・オフサイト太陽光発電 供給方法の整理・比較

新たに認められた「遠隔地にある第三者所有の設備から調達する自己託送」ですが、「自己託送(第三者所有型)」や「自己託送(組合型)」などいろいろな呼び方が使われています。
ここでは一般送配電事業者が提供する自己託送という送電サービスを利用するが、需要家と資本関係にない第三者が発電所を所有する場合は、環境省で使われている用語にならい「オフサイトPPA(直接供給)」と呼びます。

自己託送

需要地外の自社所有またはグループ会社が所有する発電所から電気の供給を受ける。
自己託送

オフサイトPPA(直接供給)

需要地外の発電設備を所有する発電事業者と需要家が組合を設立し、需要家へ直接電気を供給する売買契約を結ぶもの。(自己託送制度利用)
オフサイトPPA(直接供給)

オフサイトPPA(間接供給)

需要地外の発電設備を所有する発電事業者から、小売電気事業者を介して需要家へ電気を供給する売買契約を結ぶもの。
オフサイトPPA(間接供給)

  自己託送 オフサイトPPA
(直接供給)
オフサイトPPA
(間接供給)
発電所所有 自社・グループ企業 第三者 第三者
託送料金
インバランスリスク あり あり あり

いずれもオフサイト(需要地外)の発電所から需要家へ、電力系統を使って供給するため、託送料金(送配電網の利用料金)を一般送配電事業者へ支払うことが必要です。
また電力系統を使うため、30分単位の「送電量計画」を立てる必要があります。再エネ発電量は天候に左右されるため正確な予測が難しいですが、計画と実績にズレが生じた場合にはインバランス料金というペナルティが課せられます。

オフサイトPPAは直接供給も間接供給も条件は同じです。この2つをさらに詳しく比較していきます。

再エネ賦課金

  オフサイトPPA
(直接供給)
オフサイトPPA
(間接供給)
再エネ賦課金 不要

自己託送のしくみを活用する「オフサイトPPA(直接供給)」は、オフサイトの発電設備からの電力を自家消費するとみなされ、再エネ賦課金の支払い対象外となります。
一方「オフサイトPPA(間接供給)」は通常電力会社から電気を買うのと同様に再エネ賦課金の支払いが必要となり、需要家が支払う1kWhあたりの料金に上乗せされます。
オフサイトPPA(直接供給)は小売電気事業者介在も不要で、この条件だけ見れば、オフサイトPPA(直接供給)の方が有利に見えます。

補助・支援制度(補助金、FIP制度の活用)

  オフサイトPPA
(直接供給)
オフサイトPPA
(間接供給)
FIP制度活用 不可
補助金活用 難しい 活用しやすい

オフサイトPPA(直接供給)はFIP制度を活用することはできませんが、オフサイトPPA(間接供給)はFIP制度を活用できるため、プレミアムを受け取ることができます。
また「需要家主導による太陽光発電導入促進補助金」等のオフサイト太陽光発電を支援する補助金は、「自己託送、FIT/FIPを活用しない」という条件であることが多いため、(FIP制度との併用はできませんが)オフサイトPPA(間接供給)のほうが補助金を活用しやすいと言えるでしょう。
参考:FIP制度についてくわしくは、FIP制度が2022年4月から導入されます。の記事をご参照ください。

既存設備の利用

  オフサイトPPA
(直接供給)
オフサイトPPA
(間接供給)
新設かどうか 新設のみ 新設、既設
いずれも可

オフサイトPPA(直接供給)では、新たに設置する設備が対象です。

当該組合の組合員の需要に応ずるための専用の設備として新たに設置するものに限る
電気事業法施行規則 第2条第3項

オフサイトPPA(間接供給)では新設かどうかの規制はありません。今後増加が見込まれるFIT制度による買取期間が満了した発電設備等も利用できます。

1つの発電設備から複数需要地への供給

  オフサイトPPA
(直接供給)
オフサイトPPA
(間接供給)
複数需要地への供給 難しい

自己託送のしくみを活用するオフサイトPPA(直接供給)は、1つ以上の建物に供給する場合、「特定供給」の許可を取得しなければならないケースがあり、許可を取得する必要があるかどうか確認することが必要です。

電気事業(発電事業を除く。)を営む場合及び次に掲げる場合を除き、電気を供給する事業を営もうとする者は、供給の相手方及び供給する場所ごとに、経済産業大臣の許可を受けなければならない。
一 専ら一の建物内又は経済産業省令で定める構内の需要に応じ電気を供給するための発電設備により電気を供給するとき。
二 小売電気事業、一般送配電事業、配電事業、特定送配電事業又は特定卸供給事業の用に供するための電気を供給するとき。
電気事業法 第二十七条の三十三

複数の需要地へ供給する場合、オフサイトPPA(直接供給)を選択するとハードルが上がると言えるでしょう。
資源エネルギー庁「自己託送制度及び自己託送に係る指針について」のWEBページで、許可が必要なケース/不要なケースの例示がされていますのでご確認ください。

まとめ

遠隔地にある第三者が所有する発電設備から自己託送のしくみを活用して供給することが可能になったことで、需要家の再エネ調達の幅が広がったと言えます。
直接供給と間接供給は、それぞれにメリットがあり、どちらが有利か不利かは使いみちにより異なるでしょう。
今後の案件創出の際、ご参考になさってください。

参考:

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