2023年の3月に太陽光発電所の保安規律が変わる法律が施行されます。
10〜50kWの低圧太陽光も影響する変更です。
詳細な内容は2022年11月中旬時点で明らかになっていない事も多いですが、気になる点について現時点で公開されている資料から未確定事項も含めて共有します。
2022年11月中旬時点の情報です。ご紹介する内容は今後変更される可能性があります。
改正の概要
電気事業法の改正(高圧ガス保安法等の一部を改正する法律)が第208回通常国会で2022年6月15日に成立しました。2022年6月22日に公布され、2023年春に施行の見込みです。
「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律」では、電気事業法において
認定高度保安実施設置者に係る認定制度
小規模事業用電気工作物に係る届出制度等
登録適合性確認機関による事前確認制度
が導入されることになります。「小規模事業用電気工作物に係る届出制度等」が今回の低圧太陽光の保安規制に関係する部分です。
参考:「高圧ガス保安法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました | 経済産業省
小規模事業用電気工作物に係る届出制度等の概要
10kW以上50kW未満の太陽光発電、20kW未満の風力発電設備は「一般用電気工作物」と分類されてきましたが、新設される「小規模事業用電気工作物」に分類されることに。
小規模事業用電気工作物が新たに負う義務
- 技術基準適合維持
- 基礎情報届出
- 使用前自己確認
それぞれの内容は、後ほど紹介します。
施行時期
「小規模事業用電気工作物に係る届出制度等」は、公布から9ヶ月内に施行されることが定められています。
2022年(令和4年)6月22日公布 + 9ヶ月 = 2023年(令和5年)3月21日までに施行されると見られます。
※12/7追記
2023年(令和5年)3月20日(月曜日)に施行されることが閣議決定しました。
施行:法律の効力が発動、作用することになること
対象設備
あらたに「小規模事業用電気工作物となる太陽光発電設備」として分類されることになる太陽光発電設備は以下のとおり。
規模:10kW以上〜50kW未満
新設/既設:いずれも
地上設置/屋根上設置:いずれも
FIT認定有/無:いずれも
ただし、課される義務の項目によって対応要否が異なります。後ほど義務ごとにご紹介します。
届出方法
電子申請システムを構築し、オンラインでの届出となる見込みです。
可能な限りFITの認定情報と連携して、重複した登録を不要とし、申請者の手間を軽減する方向で検討されています。
新たな義務① 技術基準適合維持
新たに小規模事業用電気工作物への位置づけられることで、設置者に対して、電気工作物が技術基準に適合した状態を維持する義務が課される、というもの。
現行制度でも“一般用電気工作物”である低圧太陽光も、技術基準に適合させる義務はあります。
施行後は技術基準に適合させるだけではなく、適合状態を維持することが求められます。
適合状態を「維持する」と示す方法
具体的な対応として、事業用電気工作物では「保安規定の策定」や「主任技術者の専任」を実施、届け出ることにより、技術基準への適合状態を維持することを示しています。
小規模事業用電気工作物ではそこまでは求められませんが、その代替として「発電所に関する基本的な情報」の届出をすることとなります。
この届出が2つ目の義務「基礎情報の届出」です。内容は後ほど紹介します。
参考:技術基準
電気事業法>第三章 電気工作物>第三節 一般用電気工作物>技術基準適合命令
第五十六条 経済産業大臣は、一般用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは、その所有者又は占有者に対し、その技術基準に適合するように一般用電気工作物を修理し、改造し、若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる。
(経済産業省令)発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令
発電用太陽電池設備に関する技術基準の解釈
電気設備の技術基準の解釈の解説
新たな義務② 基礎情報届出
所有者情報や設備に係る情報及び保安管理を実務的に担う者等の基礎的な情報の経産省への届出を求める、というもの。
新たな義務① 技術基準適合維持の項目でもご紹介したように、この基礎情報届出
は、事業用電気工作物における「保安規定の策定」や「主任技術者の専任」の代替という位置づけです。
設備やその設置者に係る情報が過不足なく含まれていること
電気工作物に係る保安体制が確認できること
を満たし、かつ届出手続きの負担をかけない内容で検討されています。
基礎情報の届出事項
基礎方法の届出事項は、以下のような項目が検討されています。
(1)設備や設置者に係る基本的情報
設置者
- 事業者名
- 代表者名
- 事業者の住所
- 電話番号、メールアドレス
設備
- 事業名
- 電気工作物の種類、出力規模
- 電気工作物の所在地(住所)
(2)保安体制に係る情報
保安体制
- 保安管理担当者名(保守管理業務の受託者含む)
- 点検頻度
※業界団体が推奨する点検頻度に基づく場合にはチェックのみ
基礎情報届出の対象
FIT認定を取得している設備をお持ちの方は、前述の基礎情報の届出事項について、FIT認定で申請している内容と重複している内容が多いことにお気づきでしょう。
手続き負担の軽減のため、FITの認定情報との連携も検討されており、対応要否は以下のようになる見込みです。
既設 | FIT認定あり |
法の施行時には届出不要。 |
---|---|---|
FIT認定なし (完全自家消費など) |
法の施行から6ヶ月以内に届出が必要。 |
|
新設 |
FIT認定あり・なし |
新設・変更時の使用開始前に届出が必要。 |
新たな義務③ 使用前自己確認
新たに小規模事業用電気工作物への位置づけられることで、電気工作物の運転開始前(使用前)に技術基準適合性を確認し、その結果を経産省へ届け出る「使用前自己確認制度」の対象となる、というもの。
確認業務を専門の施工業者やO&M事業者へ委託することを可能ですが、当該委託事業者の情報についても経産省への届出が求められます。
使用前自己確認の対象・確認項目の拡大
現行制度では使用前自己確認制度は500kW以上が対象であったところ、小規模事業用電気工作物も対象に追加される予定。
また災害対策・レジリエンスの強化の観点から、電気的リスクだけではなく構造的リスクについても把握するために、構造・基礎の確認項目拡充が検討されています。
使用前自己確認の対象
基本的には施行日以降に使用を開始する設備が対象です。
施行日以前から使用を開始している設備は対象外ですが、一定の変更を行った場合は使用前自己確認結果の届出が求められます。
使用前自己確認が必要となる変更
10kW以上の増設または支持物を含む取替えで、合計出力が2,000kW未満の設備
10kWかつ出力5%以上の太陽電池パネルのみの取替えで、合計出力が2,000kW未満の設備
20%以上の電圧の変更で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
支持物の強度の変更で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
支持物の強度に影響のある修理で、合計出力が10kW以上2,000kW未満の設備
小規模事業用電気工作物は簡略化される
新たに使用前自己確認制度の対象となる小規模事業用電気工作物は、電気的なリスクが比較的低いことから、電気的な確認項目の合理化や確認方法は簡略化されると見られます。
例えば、現在事業用電気工作物で実施されている使用前自己確認の確認項目には、“高圧及び特別高圧の◯◯において…”と高圧以上の設備に求めている項目もありますが、こうした項目を削除する、などが考えられます。
参考:現行の使用前自己確認の確認項目
現行の使用前自己確認における具体的な確認項目や方法等は、「使用前自主検査及び使用前自己確認の方法の解釈(PDF)」で明記されています。
まとめ
現在着手済の案件も、連系、使用開始は2023年4月以降となり、新制度の対象となるケースも多いのではないでしょうか。
特に使用前自己確認と結果届出は手間、コストがかかると見込まれ、注意が必要です。
まだ確定ではありませんが、想定外の届出、検査について早めにご承知おきいただくことをおすすめするため共有しました。
専用サイトができていますので、併せてご確認ください。
参考:令和4年度小出力発電設備等保安力向上総合支援事業 | 経済産業省