政府の電力システム改革貫徹のための政策小委員会で「容量メカニズム」導入の議論が始まっています。
容量メカニズムとは何か、なぜ導入が検討されているのか、などをご紹介します。
「kWh」ではなく「kW」の価値に対して対価が支払われる「容量メカニズム」
発電事業者は市場で電気(kWh)を売って得た収入で、発電に要するコストを回収するのが基本的な考え方です。
これに対し、発電する能力(容量・kW)に応じた容量価格が支払われるというのが「容量メカニズム」です。
供給力が必要な場合に確実に発電できる状況を保持することで、発電したかどうかに関わらず一定の収入が得られ、電気(kWh)を販売する収入(売電収入)を補完する一定の収入ができるため、発電設備の投資回収の予見性が高まります。
容量メカニズムが検討される背景
現在、主に火力発電設備に対して容量メカニズムの導入が検討されています。
なぜ容量(kW)に対し料金を支払う必要があるのか、その背景を見ていきます。
自由化後は投資回収の予見性が低下
電力小売自由化前の電気料金は「総括原価方式」といって発電にかかるコストに基づいて料金が決められており、発電設備への投資を回収しやすいものでした。
しかし自由化後は原則として市場での取引を通じて売電収入を得るか、または市場価格を指標として投資回収する仕組みへと移行していくため、これまでより投資回収の見通しが立ちにくくなります。
太陽光発電・風力発電の導入が進み、火力発電の稼働率が低下する
FIT制度によって太陽光発電などの再生可能エネルギーは急激に増加し、供給が需要を上回りかねないと、出力制御のルールが定められました。(参考:今さら聞けない「出力制御」〜なぜ出力制御が必要なのか?〜)
電力供給が多すぎるときは太陽光発電も抑制されますが、それより前に出力を調整できる石油火力発電やガス火力発電の出力が抑制されます。これは優先給電ルール※1によって決められています。
再エネが増えることで、それら火力発電の稼働率が低下するのです。
「投資回収の予見性が低下」「売電収入が低下」となれば、発電設備への投資意欲が減退し、「発電所の新設が行われない」「既存発電所の閉鎖」と、火力発電所の減少が進むことが考えられ、以下のような問題が生じます。
供給力が不足するおそれ
需給ひっ迫時に電力が不足するおそれがあります。
電気は基本的に貯めることができないため、刻々と変動している電力消費量に合わせて供給する電力量を常に一致させ続ける必要があります(同時同量といいます)。太陽光発電や風力発電の導入が進んでも発電量が天候に左右されるため、需給調整のための調整電源が一定量必要です。石油火力発電やLNG火力発電は短時間で出力を調整できるため需給調整力が高いですが、その調整力が確保できない問題も生じます。
料金が高止まるおそれ
供給力が不足してから発電所を建設しようとしても、完成までには10年ほどの時間が必要です。
供給が不足している期間は電気料金が高止まりするおそれがあります。
上記のような問題に対し、卸売電力市場(kWhの価値の取引)による調整機能だけでは中長期的に供給力が確保できないということで、容量メカニズムの導入が検討されはじめたというわけです。
デマンドレスポンスが容量メカニズムの対象になる可能性も
電気の供給量に合わせて需要家が電気の消費を抑制することで、電力需給逼迫時の対策の1つであるデマンドレスポンス。節電により余った電力を束ねれば、発電所で発電することと同じように考えることができます。
ピーク時しか使えない発電所を待機させるよりも合理的ですし、さらに活用が進むことが望まれます。
自由化先進国ではどうしてる?
電力自由化の進んだ国においても同様に供給能力に対するインセンティブを付与する策がとられはじめています。
しかし各国の事情がまちまちであり、国際標準と呼べる具体的な手法はまだありません。
これから海外先進事例も踏まえ、時間をかけて更に検討が進められると思われます。