“2023年度から託送料金が値上げされる”というニュースがありました。これは2023年度から導入される新たな託送料金制度「レベニューキャップ制度」に関係します。
新たな託送料金制度の内容と、見直される背景、値上げにつながる理由や、想定される託送料金単価などをご説明します。
託送料金とは
託送料金を一言でいうと「送配電網の利用料」のことです。
需要家が支払う電気料金は、発電事業者へ支払われる「発電料」、送配電事業者へ支払われる「託送料金」などを含んで小売電気事業者から需要家へ請求されていますので、託送料金の値上げは電気料金の値上げに直結します。
2022年度末までの計算方式「総括原価方式」
2022年度末までは「総括原価方式」で託送料金が決まります。
総括原価方式は、「安定供給に必要な費用」に「利潤」を加えた額を原価とし、原価を回収できるよう料金を決める方式です。
電気料金などの公共性の高いサービスで採用されていて、費用と収入が等しくなるよう設定されるため、社会の基盤となる公益性の高い事業の存続を助けます。
一般送配電事業者としては赤字の心配がなく、長期的な設備投資計画などが立てやすい一方、利益が保証されているためコスト削減など効率化の努力が行われにくい課題もあります。
託送料金制度が見直される背景
系統電力需要は、人口減少や省エネルギーの進展等により、2013年度とほぼ同レベルで推移すると見込まれています。
- 再エネ電源の導入拡大に対応するため送配電網の増強
- デジタル化をはじめとする電力インフラの高度化
- 自然災害の激甚化を踏まえた電力インフラのレジリエンス強化
- 高度経済成長期に整備した送配電設備の更新
などコスト増となる設備投資が求められています。
必要な投資の確保と、国民負担の抑制(コスト効率化)の両立が求められるため、現行の“コスト削減が行われにくい総括原価方式”ではなく、新しく“レベニューキャップ制度”を導入することとなったのです。
レベニューキャップ制度の内容
レベニューキャップ(revenue cap)は「収入上限」という意味です。
一般送配電事業者が、国の策定する指針に基づいて一定期間に達成すべき目標を明確にした事業計画を策定、その実施に必要な費用を見積もって収入上限を算定し、国に提出して審査を受けます。承認を受ければ、収入上限の範囲内で託送料金が設定されます。
レベニューキャップ制度のねらい①コスト効率化
企業努力によって費用を削減すると、その分利益が増加するため、積極的に効率化に取り組むことが見込まれます。
レベニューキャップ制度のねらい②費用の抑制
国が一定期間ごとに審査・査定を行うことで、コスト効率化の成果を系統利用者に還元していく仕組みとすること等により、費用の抑制が図れます。
レベニューキャップ制度のねらい③必要な投資の確保
異常気象や災害など外的要因による費用が膨らんだ場合、翌期の収入上限に反映できるため、一般送配電事業者の経営悪化を回避でき、安心して必要な設備投資を実行できます。
開始までのスケジュール
2023年度から2027年度までの第一規制期間の事業計画が、各一般送配電事業者から経済産業省へ2022年7月に提出されました。2022年内くらいを目処に審査され、収入上限の承認や託送料金の認可を経て、2023年4月からレベニューキャップ制度が始まります。
一般送配電事業者が策定する事業計画とは
国が示した指針に沿って、一定期間に達成すべき目標を明確にした事業計画の策定や収入上限の算定を行いますが、記載すべき内容は指針に示されています。
l.目標
国が示した指針に基づき、以下の7分野について規制期間に達成すべき目標を設定します。
- 安定供給
- 再エネ導入拡大
- サービスレベルの向上
- 広域化
- デジタル化
- 安全性・環境性への配慮
- 次世代化
それぞれの目標事項に、定量的、定性的な設定目標や、目標設定の根拠や現状課題、標達成に向けた具体的な取組内容など、詳細な情報の提出が求められます。
2.前提計画
投資判断の前提となる発電、需要の見込みや再エネ連系量予測などの見通し数値とともに、算定根拠(算定方法)を明記する必要があります。
- 供給区域全体の需要の見通し(kW, kWh)
- 供給区域全体の発電(供給力)の見通し(kW, kWh)
- 供給区域全体の再エネ連系量の見通し(kW, kWh)
- 供給区域全体の調整力量の見通し(kW, ΔkW, kWh)
3.事業収入全体見通し
事業計画の実施に必要な費用を見積り、その金額を収入上限として申請します。
概要、内訳、過去実績との比較を示す必要があります。
4.目標を実現するための事業計画
目標を達成するための具体的な取組内容についての事業計画を提出します。
事業計画【費用】
①OPEX査定対象費用全体の見通し額
②各費用の見通し額(年度毎)
③見通し額の算定根拠(算定方法)
④各費用の過去実績の推移
⑤要員計画
事業計画【投資】
①設備拡充計画
②設備保全計画
③効率化計画
④その他計画
一般送配電事業者が提出した見積費用と託送単価見通し
提出された事業計画の内容から「必要な費用の見積もり(=収入上限)」「第一規制期間(2023〜2027年度)の想定需要から試算された託送料金単価」をご紹介します。(2022年8月時点の情報です。確定情報ではありませんので、ご承知おきの上参考になさってください。)
北海道電力ネットワーク
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は2,015億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、128億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより206億円/年増加。
「北海道電力ネットワーク株式会社 事業計画 2023-2027」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 10.11 | 9.25 | +0.86 | +9.3% |
高圧 | 4.91 | 4.21 | +0.70 | +16.4% |
特別高圧 | 2.92 | 2.71 | +0.21 | +8.0% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:北海道電力ネットワーク株式会社 事業計画 2023-2027
東北電力ネットワーク
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は4,846億円億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、269億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより382億円/年増加。
「東北電力ネットワーク株式会社 2023年度-2027年度 事業計画」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 10.86 | 9.76 | +1.10 | +11.3% |
高圧 | 4.89 | 4.66 | +0.23 | +4.9% |
特別高圧 | 2.35 | 2.26 | +0.09 | +4.0% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:東北電力ネットワーク株式会社 2023年度-2027年度 事業計画
東京電力パワーグリッド
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は15,076億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、994億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより934億円/年増加。
「東京電力パワーグリッド株式会社 レベニューキャップ制度第1規制期間(2023〜2027年度)事業計画【概要版】」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 9.24 | 8.82 | +0.42 | +4.8% |
高圧 | 4.34 | 3.92 | +0.42 | +10.7% |
特別高圧 | 2.44 | 2.27 | +0.17 | +7.5% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:東京電力パワーグリッド株式会社 レベニューキャップ制度第1規制期間(2023〜2027年度)事業計画【概要版】
中部電力パワーグリッド
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は6,386億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、337億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより506億円/年増加。
「中部電力パワーグリッド株式会社 事業計画 2023-2027」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 9.63 | 9.08 | +0.55 | +6.1% |
高圧 | 3.95 | 3.46 | +0.49 | +14.2% |
特別高圧 | 2.09 | 1.92 | +0.17 | +8.9% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:中部電力パワーグリッド株式会社 事業計画 2023-2027
北陸電力送配電
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は1,494億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、162億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより225億円/年加。
「北陸電力送配電株式会社 事業計画(2023-2027年度)」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 9.13 | 7.85 | +1.28 | +16.3% |
高圧 | 4.64 | 3.90 | +0.74 | +19.0% |
特別高圧 | 2.37 | 1.95 | +0.42 | +21.5% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:北陸電力送配電株式会社 事業計画(2023-2027年度)
関西電力送配電
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は7,273億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、631億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより599億円/年増加。
「関西電力送配電株式会社 第1規制期間(2023-2027年度)における事業計画」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 8.36 | 7.93 | +0.43 | +5.4% |
高圧 | 4.92 | 4.14 | +0.78 | +18.8% |
特別高圧 | 2.40 | 2.30 | +0.10 | +4.3% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:関西電力送配電株式会社 第1規制期間(2023-2027年度)における事業計画
中国電力ネットワーク
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は3,230億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、510億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより512億円/年増加。
「中国電力ネットワーク株式会社 事業計画 2023-2027年度」における事業計画」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 9.88 | 8.29 | +1.59 | +19.2% |
高圧 | 4.86 | 4.04 | +0.82 | +20.3% |
特別高圧 | 2.11 | 1.85 | +0.26 | +14.1% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:中国電力ネットワーク株式会社 事業計画 2023-2027年度」における事業計画
四国電力送配電
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は1,600億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、176億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより192億円/年増加。
「四国電力送配電株式会社 事業計画(2023〜2027年度)」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 9.94 | 8.79 | +1.15 | +13.1% |
高圧 | 4.94 | 4.25 | +0.69 | +16.2% |
特別高圧 | 2.48 | 2.29 | +0.19 | +8.2% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:四国電力送配電株式会社 事業計画(2023〜2027年度)
九州電力送配電
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は5,071億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、760億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより616億円/年増加。
「九州電⼒送配電株式会社 事業計画(2023〜2027年度)」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 9.93 | 8.74 | +1.19 | +13.6% |
高圧 | 4.63 | 3.99 | +0.64 | +16.0% |
特別高圧 | 2.66 | 2.43 | +0.23 | +9.5% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:九州電⼒送配電株式会社 事業計画(2023〜2027年度)
沖縄電力
第1規制期間に必要な費用及び収入(=収入上限)年平均は714億円。
2017〜2021年度の実績と比較し、149億円/年増加。
現行料金を継続した場合の収入見込みより111億円/年増加。
「沖縄電⼒送配電株式会社 事業計画(2023〜2027年度)」の情報をもとに弊社にてグラフ作成
見積額をもとに計算した託送料金の見通し(税抜、円/kWh)
単価試算 | 現行単価 | 増減 | 増減率 | |
---|---|---|---|---|
低圧 | 12.35 | 10.49 | +1.86 | +17.7% |
高圧 | 6.92 | 5.76 | +1.16 | +20.1% |
特別高圧 | 4.28 | 3.66 | +0.62 | +16.9% |
単価試算は収入の見通しを基に、一般送配電事業託送供給等約款料金算定規則に準じて算定した参考値
出典:「沖縄電⼒送配電株式会社 事業計画(2023〜2027年度)
まとめ
新託送料金制度「レベニューキャップ制度」導入に伴い、(まだ確定ではないですが)来年度から託送料金が上がることになりそうです。
託送料金の値上げは、需要家が支払う電気料金の値上げに直結するため、再エネのさらなる拡大に電力系統の増強が必要とはいえ、託送料金がどんどん上がるのも困ります。
託送料金の上昇には、電力系統を利用しない屋根上の太陽光発電による電力の自家消費が有効な防衛策と言えます。
系統の増強とコスト削減が最大限進むよう期待され、国民負担の抑制が機能するか注視していくとともに、屋根上・敷地内の太陽光発電の推進に向けて取り組んでまいりましょう。
参考:託送料金制度(レベニューキャップ制度)「料金制度専門会合中間とりまとめ」について| 電力・ガス取引監視等委員会