FIT/FIP認定を受ける際に、発電所を設置する近隣の地域住民に対し、説明会などの実施を義務化する動きが進行中です。
2023年10月時点でまだ確定はしていませんが、経緯や、対象となる発電事業、求められる対応などについて公表されている内容をご紹介します。
※2023年10月時点の情報です。確定していない内容を含んでおり、今後変更される可能性があります。正確な情報は経済産業省などの公開する情報にてご確認をお願いします。
FIT/FIP認定における説明会等要件化の経緯
脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長を同時に実現するため、再生可能エネルギーの大量導入や長期電源化が求められていますが、その実現には地域共生や事業規律の徹底が欠かせません。
事業者の地域住民に対するコミュニケーション不足からトラブルが生じる例も報告されており、適切なコミュニケーションを図ることが重要視されてきました。
再エネ特措法の改正を含む「GX脱炭素電源法」が2023年5月に成立しましたが、その中の重要項目として「地域と共生した再エネの最大限の導入促進」が含まれており、この制度設計が経済産業省の再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループなどで議論されてきました。
地域共生ワーキンググループによる中間取りまとめにおいて、周辺地域の安全性に特に強く関わる以下の許認可について、FIT/FIPの申請段階において許認可を取得するよう求められることになりました。
①森林法における林地開発許可
②宅地造成及び特定盛土等規制法の許可
③砂防三法(砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地法)における許可
2023年9月に改正省令が公布、2023年10月より施行され、事業規律の徹底が進みました。
地域共生ワーキンググループによる第2次取りまとめ(案)では、地域住民に対するコミュニケーション不足から生じるトラブルを防ぐため、事業の概要や環境・景観への影響等について、地域住民への説明会を開催するなど、事業について理解を得られるように努めることが示されました。
説明会等を実施すべき太陽光発電事業
10kW未満の住宅用太陽光発電は説明会等の事前周知は不要。
屋根設置太陽光は、説明会等の事前周知は義務化されず、努力義務として求められることとなりました。(安全上の影響が及び得る範囲は当該建物を使用する者に限定されると考えられるため)
野立て太陽光発電については、
高圧・特別高圧については説明会の実施が義務付けられ、
低圧は通常のエリアへの設置には説明会以外の手法での事前周知が必要ですが、周辺地域や周辺環境に影響を及ぼす可能性が高いエリア(後述)内、複数の電源が至近距離内に集合する場合(後述)は説明会の実施が義務付けられます。
高圧・特別高圧(50kW以上)※屋根設置を除く | 低圧(50kW未満)※住宅用太陽光・屋根設置を除く | 屋根設置※住宅用太陽光を除く | 住宅用太陽光(10kW未満) | |
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通常エリア | 説明会の開催が必要 | 説明会以外の手法での事前周知が必要 | 不要 ただし事前周知を努力義務として求める |
不要 |
周辺地域や周辺環境に影響を及ぼす可能性が高いエリア内、複数の電源が至近距離内に集合する場合 | 説明会の開催が必要 |
“周辺地域や周辺環境に影響を及ぼす可能性が高いエリア”とは
- 森林法における林地開発許可の対象エリア、宅地造成及び特定盛土等規制法の許可の対象エリア、砂防三法(砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地法)における許可の対象エリア
- 土砂災害警戒区域(土砂災害特別警戒区域を含む。)、土砂災害危険箇所
- 自然環境・景観の保護を目的として、条例で保護エリアを定めている場合は、そのエリア
“複数の電源が至近距離内に集合する場合”とは
事業場所の敷地境界から100m以内に、同一の事業者が実施する再エネ発電事業が複数ある場合には、合計した出力により説明会等の開催の要否が判断されます。1つ1つの発電所の出力が低圧であっても、複数の電源を合計した出力が50kW以上となる場合には、説明会の開催が求められます。
同一の事業者とは、実質的支配者が同一である特別目的会社(SPC)も含みます。
また発電事業には、FIT/FIP認定や設置の時期を問わず、既認定・認定申請中の全ての再エネ発電事業が含まれます。
説明会
説明会における説明事項
以下の6項目の情報を提供する必要があります。
- 事業計画の内容
- 関係法令遵守状況
- 土地権原取得状況
- 事業に関する工事概要
- 関係者情報
- 事業の影響と予防措置
それぞれの具体的な内容を見ていきましょう。
1.事業計画の内容
電源種、設置形態、出力規模、設置場所などの基本情報について、図面やイメージ写真などを用いて住民にとって分かりやすく説明する。
2.関係法令遵守状況
以下の①~③の関係法令に係る手続の要否と、手続が必要である場合は、許認可等の取得状況・手続のスケジュール・法令を遵守するための実施体制など。
①災害の危険性に直接影響を及ぼし得るような土地開発に関わるものとして、FIT/FIP認定申請要件として取得を求めることとした許認可・森林法における林地開発許可・宅地造成及び特定盛土等規制法の許可・砂防三法(砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地法)における許可
②①の他、FIT/FIP認定申請時に提出を求めている「再生可能エネルギー発電事業に係る関係法令手続状況報告書」に記載の法令における許認可・届出等
③条例において、自然環境・景観の保護等を目的として、再エネ発電事業の実施に当たっての開発や、再エネ発電設備等の工作物の設置に当たって許認可・届出等を求めている場合にあっては、当該許認可・届出等
3.土地権原取得状況
土地権原の有無と土地権原取得状況についての説明。
土地権原取得状況については、土地所有者等のプライバシーへの配慮等の観点を踏まえ、土地に係る登記等そのものを示すのではなく、土地権原の有無と土地権原取得状況についての説明を求める。
4.事業に関する工事概要
予定する工事のスケジュール(運転開始予定日を含む。)などの説明
5.関係者情報
代表者・役員に加えて、主な出資者・保守点検責任者などの説明
6.事業の影響と予防措置
安全面・景観・自然環境・生活環境・廃棄等といったそれぞれの観点ごとに、説明すべき事項が整理されています。
どのように説明するかについては、一律の説明の仕方に限定するのでではなく、地域の実態や個別事案の状況等を踏まえた適切な説明が求められます。
対象となる「周辺地域の住民」の範囲
予見性を確保する観点からは、説明対象となる「周辺地域の住民」の範囲について、客観的な基準である必要があります。
併せて事業の特性や地域の実情を踏まえた柔軟な対応も重要となり、 その両方を満たすために、電源種・規模ごとに、事業場所の敷地境界からの距離による定量基準が設定されることとなりました。
以下の範囲内の居住者
地域の実情を把握する市町村への事前相談を行い、市町村から意見があった場合には、その意見を尊重して「周辺地域の住民」の範囲に加えます。意見がない場合は下記表の範囲を適用。
低圧 | 事業場所の敷地境界から100m以内 |
---|---|
高圧・特別高圧 | 事業場所の敷地境界から300m以内 |
再エネ発電設備の設置場所に隣接する土地/建物所有者
居住者への説明が基本ですが、隣接する土地/建物の所有者(居住してなくとも)再エネ発電事業の実施により受ける影響が大きいことが考慮され、対象に加えられました。
説明会の開催時期
- 原則
- 周辺地域への影響が大きいエリア場合
- 環境アセス対象の場合
の3パターンにより、開催時期(実施回数)が異なります。
説明会の開催時期 1.原則
FIT/FIP認定申請の3ヶ月前までに開催。申請前の1回のみ。
説明会の開催時期 2.周辺地域への影響が大きいエリア場合
FIT/FIP申請の要件である、
①森林法における林地開発許可
②宅地造成及び特定盛土等規制法の許可
③砂防三法(砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地法)における許可
が必要なエリアは、
①〜③の許可申請前と、FIT/FIP認定申請前の2回の開催が必要。
説明会の開催時期 3.環境アセス対象の場合
環境影響評価法又は条例に基づく環境アセスメントの対象の場合は、
配慮書作成前、IT/FIP認定申請前、FIT/FIP認定後、評価書の公告から工事着手までの3回の開催が必要。
説明会に出席すべき説明者
説明の責任主体を明確化する観点から、説明会には再エネ発電事業者自身の出席が求められます。
専門的・技術的知見を有する委託事業者などの同席は有効ですが、説明の責任主体は再エネ発電事業者となります。
事業者から説明事項を一方的に説明するだけでなく、質疑応答の時間を設け、住民の質問、意見等に対して誠実に回答することが求められます。
説明会後に事業者が一定期間(2週間)、質問募集フォーム等を設け、当該フォームに提出された質問等に対して、事業者が書面等において誠実に回答することが求められます。
説明会を開催したことを証する資料
FIT/FIP認定申請時に、説明会を開催したことを証する資料の提出が求められることになります。
- 開催案内を実施したことを証する資料
- 説明会の議事録
- 出席者名簿
- 配布資料
- 質問募集フォームにおける質問等と回答
- 説明会の概要を報告する報告書
説明会の内容の確認・検証
書面の確認だけでなく、提出された資料を確認・検証できるよう以下の策がとられます。
- 認定後に事業者から提出された説明会概要報告書が公表される。
- 住民が通報を行うことができる通報フォームが整備される。
- 事業者の申請内容に疑義が生じた場合には、報告徴収等を実施し、説明会の録画及び録音の提出が求められる。
説明会以外の手法での事前周知
周知方法
以下のいずれかの方法によって事前説明を行います。
- ポスティング又は戸別訪問による方法
- 回覧板又は自治体広報誌(紙媒体)を活用して事業者HPへのリンクを示した上で、当該事業者ウェブサイトに情報を掲載する方法
回覧板や自治体広報誌は、地域密着型で情報を伝えやすい一方、情報量は限られます。事業者ウェブサイトに情報を掲載し、回覧板や自治体広報誌に概要やリンクを掲載するなど、伝えやすさと情報量を確保する必要があります。
事前周知での説明事項
周知内容は説明会における説明事項と同じです。
①事業計画の内容
②関係法令遵守状況
③土地権原取得状況
④事業に関する工事概要
⑤関係者情報
⑥事業の影響と予防措置
詳細は、説明会における説明事項項目をご覧ください。
事前周知の対象
事業場所の敷地境界から100m以内の居住者
事前周知の時期
FIT/FIP認定申請の3ヶ月前までに実施。
資料を配布・掲載すれば終わりではなく、質問を受け付け回答することが求められます。
事前周知の際には必ず質問等の提出先・提出期限 (事前周知の日から2週間の期間を設ける)を記載し、提出された質問等には、事業者が書面において誠実に回答することが求められます。
事前周知を実施したことを証する資料
FIT/FIP認定申請時に、説明会を開催したことを証する資料の提出が求められることになります。
- 事前周知先の名簿
- 配布資料
- 事前周知後に提出された質問等と回答
- 事前周知の概要を報告する報告書(事前周知概要報告書)
説明会、事前周知の申請内容に虚偽が発覚した場合
事業者の申請内容に虚偽が発覚した場合は、必要な要件を満たさない申請として認定を受けられず、仮に認定後に虚偽が発覚した場合は、認定を取り消すなどの厳格な対応がなされます。
新設以外の場合
事業譲渡などにより事業者が交代する場合は、
- 事業譲渡等の契約書の締結後
- 変更認定前
のタイミングで説明会や説明会以外での事前周知の実施が求められます。
事業譲渡や実質的支配者の変更により事業者が交代する場面も、地域とのコミュニケーション不足によりトラブルが発生する事案が生じやすいため。
説明会を開催する場合は、譲渡人と譲受人の双方の出席が必要で、説明会以外での事前周知の場合は、事前周知を譲渡人と譲受人双方の名義で行う必要があります。
また以下の重要な事項に変更がある場合は、
- 再エネ発電設備の増出力等で、新たに説明会等事前周知範囲に該当する場合
- 再エネ発電設備の認定出力又はパネル出力を20%以上又は50kW以上増加させる場合
- 再エネ発電事業の設置場所を変更する場合
変更認定申請前に説明会や説明会以外での事前周知の実施が求められます。
まとめ
FIT/FIP認定を受ける際、地域住民への説明会などの義務化について検討されている内容をご紹介しました。
新規認定以外にも、事業譲渡などでも対応が必要となり、影響範囲は広いと言えます。
改正再エネ特措法の施行(2024年4月〜)から適用となるとみられ、事前に情報収集していきましょう。
参考:
再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ
解説動画
本記事を分かりやすく動画で説明します。