GX脱炭素電源法が、2023年5月31日に成立しました。
詳細な制度内容はまだ明らかになっていませんが、太陽光発電事業に関連する項目も含まれています。以下では、法律の概要や背景とともに、影響を受ける要点をご紹介します。

GX脱炭素電源法とは

正式名称は「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」。
GX実現に向けた関連法の整備として、電気事業法と再エネ特措法などを改正するものです。

GXとは、「グリーントランスフォーメーション(Green Transformation)」の略であり、化石燃料の使用を最小限に抑え、クリーンなエネルギーを活用するための取り組みや実現に向けた活動を指します。

経緯

2023年2月10日 「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定

2023年2月10日に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました。この基本方針では、脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長を同時に実現するための取り組み方針が示されています。

  • 2030年度の温室効果ガス46%削減や2050年カーボンニュートラルの国際公約の達成
  • 安定的で安価なエネルギー供給につながるエネルギー需給構造の転換の実現

に向け、今後10年を見据えた取組の方針が取りまとめられています。

GX実現に向けた基本方針では、主に以下の2点の取り組みについて示されています。
① エネルギー安定供給の確保
・徹底した省エネ
・再エネや原子力などのエネルギー自給率の向上に資する脱炭素電源への転換など

② GXの実現に向けた成長志向型カーボンプライシング構想の実現・実行
・GX経済移行債等を活用した先行投資支援
・カーボンプライシングによるGX投資先行インセンティブ
新たな金融手法の活用 など

参考:「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定されました | 経済産業省

GX実現に向けた関連法の整備

GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)

2023年5月12日に成立。
この法律は「GX実現に向けた基本方針」の取り組みのうち「②GXの実現に向けた成長志向型カーボンプライシング構想の実現・実行」に関連しています。
 

GX脱炭素電源法(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)

2023年5月31日に成立。
この法律は「GX実現に向けた基本方針」の取り組みのうち、「①エネルギー安定供給の確保」に関連しています。

GX脱炭素電源法は
(1)地域と共生した再エネの最大限の導入促進
(2)安全確保を大前提とした原子力の活用・廃炉の推進
の2つの大項目からなりたっています。

「(1)地域と共生した再エネの最大限の導入促進」が太陽光発電に影響のある部分ですので、本記事ではこの部分をご紹介していきます。

補足:法律ができるまでのおおまかなステップ
1.法案の作成
2.国会提出に向けた閣議決定
3.国会で審議する
4.法律が成立する
5.法律が公布される ←イマココ
6.施行される

GX脱炭素電源法は、今後詳細な制度設計が進み、2024年4月1日に施行されます。

(1)地域と共生した再エネの最大限の導入促進

①再エネ導入に資する系統整備のための環境整備
②既存再エネの最大限の活用のための追加投資促進
③地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化
の3つからなります。
ひとつひとつ見ていきます。

①再エネ導入に資する系統整備のための環境整備

再エネの大規模導入には、電力系統の整備が必要ですが、これには膨大な費用と時間がかかります。そのため、系統整備を促進するための環境整備が行われます。
以下のような内容が検討されています。

  • 送電線の整備計画の認定制度が新設されます。安定供給に特に重要な計画を経済産業大臣により認定されます。
  • 認定を受けた整備計画のうち、再エネの利用促進に資するものは、工事が開始された段階から系統交付金(再エネ賦課金)が交付されます。
  • 電力広域的運営推進機関(OCCTO)の業務に、認定を受けた整備計画に関連する送電線の整備に向けた貸付業務が追加されます。

②既存再エネの最大限の活用のための追加投資促進

既存の再エネ設備の活用を最大限に引き出すために、追加投資(更新や増設)を促進する制度が新設されます。

現行制度では、認定取得後に太陽光発電パネルを3kW以上または3%以上増設する場合、既設部分を含めた発電設備全体の買取単価が最新の買取単価に変更されます。買取単価を大きく下げることにつながるため、途中での高効率パネルへの更新や増設が難しくなっています。
そこで追加投資部分に、既設部分と区別した新たな買取価格を適用する制度が導入されます。
例えば、当初設置されていたパネル出力が100kW、PCS容量も100kWで、認定を受けた出力が100kWとします。買取単価は20円/kWhで売電しているとします。
増設・更新により20kW出力が増え、増出力分には10円が設定された場合、
(20円/kWh×100 + 10円/kWh×20)÷120=18.33円/kWh
と加重平均で単価を設定することが検討されています。

見直し後価格変更イメージ

第3回 再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ 資料1

③地域と共生した再エネ導入のための事業規律強化

FIT制度開始以降、再エネの導入は拡大しましたが、認定取得後に適切な管理を行わない事業者が増加するという課題があります。再エネの大量導入や既設再エネの長期電源化を促すためには、地域共生や事業規律の徹底が大前提となるため、事業規律の強化や地域とのコミュニケーション確保に向けた取り組みが行われます。

関係法令等の違反事業者に対して、交付金による支援額の積立て

関係法令違反事業者に対して、国民負担によるFIT/FIPの支援金を一時的に留保する措置が導入されます。現行制度では、違反している状態でも認定が取り消されるまで支援が継続されています。しかし、これは不適切な支援であるとともに、早期に違反を解消する行動につながりにくくなっています。

違反案件の認定取消しに向けた手続イメージ

出典:第4回 再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ 資料1

違反が解消された場合は、相当額の取り戻しを認めることで、事業者の早期改善を促進する一方、 違反が解消されなかった場合は、国民負担によるFIT/FIPの支援額の返還命令が措置されるようです。

補足:「FIT/FIP支援の留保」とは?
再エネの普及を促進する取り組み1つとして、再エネ賦課金(国民負担)の支援により、電気そのものの価値に上乗せされた金額で再エネ発電の電力が買い取られています。
「FIT/FIP支援の留保」とは、国民負担分が一時的に留め置かれ、その期間は電気そのものの価値の金額で買い取られるとみられます。

事業計画の認定要件として周辺地域への事前周知義務化

一定規模以上の発電設備などにおいて、事前に説明会の開催や地域への周知活動を義務化することが検討されています。対象となるのは、例えば50kW以上の高圧などの電源や、土砂災害警戒区域などで災害の影響が高いエリアや住民の生活環境に近いエリアです。

事前周知対象範囲案

出典:第3回 再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ 資料1

委託先への監督義務

設計、施工、運用・管理、撤去・廃棄などの一連の事業は、各専門事業者に委託されることが一般的ですが、委託先が認定基準に違反した場合には、認定事業者(発電事業者)の責任を明確にするための措置が取られます。認定事業者には、委託先や再委託先に対する監督義務が課されます。
具体的な内容はまだ公開されていませんが、以下のような案が上がっています。

  • 監督義務不履行があった場合は、認定事業者に対して認定取消などの措置を取る。
  • ガイドラインにおいて認定事業者と委託先間の契約に含めるべき事項(定期報告体制、再委託時の認定事業者の事前同意等)を定める。
監督義務のイメージ

出典:第3回 再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ 資料1

関係法令遵守等の徹底

FIT/FIP認定事業には、事業規律が定められていますが、非FIT・非FIP事業においても同等の規律順守が求められます。非FIT・非FIP事業では補助金を受けるケースも多く、再エネに関連する補助制度を持つ関係省庁と連携して、適切な基準を設定するための検討が進められます。


以上、GX脱炭素電源法の太陽光発電関連項目について解説しました。
GX脱炭素電源法は成立しており、2024年度から施行される予定ですが、詳細な制度設計はまだ検討中です。経済産業省の再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループなどで議論が行われており、2023年度中に詳細が決まる見通しです。

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