FIT認定案件を失効する「認定失効制度」が2022年4月1日から施行されます。運転開始期限を過ぎても、運転開始に向けた一定の進捗がない場合、認定を失効するというものです。

太陽光発電のうち、

  • 認定は取得しているが運転開始していない
  • 10kW以上

の事業者さまが関係します。
主に10〜50kWの太陽光発電事業者さま向けに、失効の条件やタイミングなどをくわしく紹介していきます。

※10kW未満の太陽光発電は、すでに1年の運転開始期限を超過すれば失効する措置がとられていますので、今回の制度は当てはまりません。
※⼤規模な案件の場合、環境アセスメントが必要となるなど運転開始に時間がかかるため、例外措置があります。この記事は低圧太陽光発電向けの情報とし、例外措置のご説明は割愛します。
なっとく再生可能エネルギー>再エネ特措法改正関連情報でご確認をお願いします。

未稼働案件に対するこれまでの経緯

長期間運転を開始していないFIT認定案件=未稼働案件が存在することで、系統容量を圧迫するなどの問題があります。
5年以上前から未稼働案件については問題視されており、法改正なども含めてさまざまな措置がとられてきました。
現行の制度の理解があると、新たな失効制度が理解しやすくなると思われますので、過去に実施された「2016年措置」、「2018年措置」について、本題の前に大まかにご紹介します。

未稼働案件に対するこれまでの対応

出典:認定失効制度について | 資源エネルギー庁

2016年措置

すでに認定を取得している案件は、2017年3月31日までに電力会社との接続契約が締結できていなければ失効となりました。
2017年4月1日の改正FIT法施行以降は、接続契約締結後に認定を取得する流れに変わりました。

2016年8月1日以降に接続契約した事業

  • 運転開始期限を設定(10kW以上太陽光の場合は3年)
  • 運転開始期限を超過して運転を開始した場合、超過した期間分、買取期間を短縮する

2016年7月31日以前に接続契約

・運転開始期限の設定なし

2017年度以降も認定を保持するためには、電力会社との接続契約を締結させる必要がありました。接続契約まで進めば、事業実施に向けて進むと見られていましたが、その後も未稼働案件は残り、2018年措置がとられることとなりました。

2018年措置

2012〜2016年に認定を受け、2016年7月31日以前に接続契約をした案件は、運転開始期限がありませんでした。これらの運転開始を促すため、2018年に以下のような措置がとられることとなりました。

2012〜2016年に認定を受け、2016年7月31日以前に接続契約をした案件

  • 「系統連系工事の着工申込」を運転開始にいたる手続きとし、認定年度ごとに着工申込受領期限が設けられた。
  • 着工申込受領期限内に受領された場合、調達価格は据え置かれ、着工申込受領期限に間に合わなかった場合、着工申込受領日の2年前の調達価格に変更された。
  • 着工申込受領期限または最初の着工申込受領の日から1年を運転開始期限とする。
  • 運転開始期限を超過した場合は、超過期間分だけ調達期間を短縮する。

この措置で2012年から2016年の案件も、「運転開始にいたる具体的な手続きを始めなければ売電単価がどんどん下がる」「着工申込提出後は運転開始が遅れると売電期間が短くなる」という状況になりました。運転開始を促す取り組みでしたが、認定を保持したまま運転開始しない案件は残り続けました。
2016年措置、2018年措置を経て、なお残る未稼働案件に対し、失効制度が設けられたという経緯です。

認定失効のパターン

認定失効の基本的なイメージ
太陽光の場合、認定から3年間の運転開始期限が設けられています。その間に運転開始すれば失効の心配はありません。

運転開始期限内に運開できない場合、期限から1年後の状況で失効かどうか判断されます。
運転開始期限から1年以内に運転を開始すれば失効とはなりません。(ただし、運転開始期限超過分は、売電期間が短縮することにご留意ください)

運転開始期限から1年以内に運転を開始できないが、「系統連系⼯事着⼯申込み」を行えば、運転開始期限の3年後まで失効猶予期間が設けられます。その間に運転開始すれば失効はされません。(ただし、運転開始期限超過分は、売電期間が短縮することにご留意ください)


認定失効の基本的なイメージ
運転開始期限から1年以内に着工申込みを行い、3年間失効が猶予された案件も、猶予期間中に運転が開始されなければ失効されます。
運転開始期限から1年以内に運転開始も着工申込も行わなければ失効となります。

ここまでが基本的な失効のイメージです。
いつ運転開始期限を迎えるか等により、いくつかの失効パターンに分かれます。

2022年4月1日後に運転開始期限を迎える場合

改正法が施行される2022年4月1日以降に運転開始期限がくる場合は、最初に紹介した基本パターンと同じです。
[A]認定から3年後の「運転開始期限」から1年後までに、着工申込が受領されず、運転開始に至らない場合は失効。
[B]着工申込が受領された場合は、猶予として運転開始期限から3年を加えられますが、それまでに運転開始に至らない場合は失効となります。

2022年4月1日後に運転開始期限がくる場合の失効イメージ
例えば2020年4月1日に認定を受けた場合の運転開始期限は3年後の2023年3月31日になります。
[A]運転開始しておらず、2024年3月31日までに着工申込も行わなければその時点で失効になります。
[B]2024年3月31日までに着工申込を行うと、2026年3月31日まで猶予期間が設けられ、その時までに運転を開始すれば失効とはなりませんが、運転開始しなければ失効となります。

2022年4月1日に運転開始期限を過ぎている場合

改正法が施行される2022年4月1日時点で運転開始期限を過ぎている場合、すなわち2019年3月31日までの認定が対象となりますが、この場合は経過措置があります。
運転開始期限からではなく、改正法の施行日から1年後の状況で判断されます。


例えば2019年1月10日に認定を受けた場合の運転開始期限は3年後の2022年1月9日になります。
[C]改正法が施行される2022年4月1日までに運転開始していなかった場合、改正法施行日から1年後の2023年3月31日までに着工申込も行わなければその時点で失効になります。
[D]2023年3月31日までに着工申込を行って、2025年3月31日まで猶予期間が設けられ、その時までに運転を開始すれば失効とはなりませんが、運転開始しなければ失効となります。

運転開始期限が設定されていない場合

2012〜2016年に認定を取得し、2016年7月31日までに接続契約を締結した案件は、「2018年措置」で
・着工申込を提出、期限に間に合わなければ調達価格が変更される、
・着工申込の1年後に運転開始期限が設定される
などの措置がありました。しかし、着工申し込みを提出していない場合は、まだ運転開始期限の設定がありません。この場合の失効イメージをご紹介します。

運転開始期限が設定されていない場合
例えば2016年4月10日に認定を受け、2016年の7月31日までに接続契約をしたが、何らかの事情で2018年度措置の着工申し込みを行なわなかった、といったケースを想定します。
[E]改正法の施行日、2022年4月1日の1年後(2023年3月31日)までに運転開始も着工申し込みもなされない場合は失効されます。
[F]改正法の施行日から1年以内に着工申込がなされた場合、2018年措置と同様、着工申込の1年後に運転開始期限が設定され、その3年後まで失効が猶予されます。それまでに運転開始がなければ失効となります。

失効を免れ運転開始ができた場合、2018年措置のとおり、着工申込の2年前の調達価格に変更されることにご留意ください。
この例の場合、2016年に認定を取得した24円案件が、2023年の2年前=2021年の調達価格である12円になるということです。

系統都合により連系が間に合わない場合は

系統側の都合により連系開始予定⽇に遅れが⽣じてしまう(事業者の責に帰さない事由)場合は、遅れた期間分が失効期間に加えられます。

系統連系⼯事着⼯申込みとは

系統連系⼯事着⼯申込みとは、発電事業者が発電設備の設置エリアの送配電事業者に対し、系統連系⼯事の申込みを⾏うというもの。この申込を受けて、送配電事業者は⼯事費負担⾦(接続契約締結時に請求)を受領し、系統連系⼯事を開始します。

この失効制度は、「事業の実施が期待できない案件を失効する」ものであるため、事業実施が期待できるか否かを明確に判断する必要があります。「送配電事業者への系統連系工事の着工申込」を行うと、事業に向けた進捗があり、運転開始に向けた進捗があると判断されます。

系統連系工事着工申込の要件

系統連系工事着工の申込時点で、以下の要件をすべて満たすことが必要です。(2.と3.は必要な場合のみ)

  1. 設備を設置する場所の所有権その他の使⽤の権原を有していること。
  2. 設備を設置する場所の農業振興地域整備計画の変更※1、または、農地転⽤許可を受けている/届出※2が不備無く⾏われていること。
  3. 設備に係る再⽣可能エネルギー発電事業計画の実施に必要な林地開発許可を受けていること。※3

※1 農業振興地域の整備に関する法律第13条第1項の農業振興地域整備計画の変更(当該設備を設置する農⽤地区域内の⼟地を農⽤地区域から除外するための⾏う農⽤地区域の変更に限る)
※2 農地法第4条第1項若しくは第5条第1項の許可/同法第4条第1項第8号若しくは第5条第1項第7号の届出
※3 森林法第10条の2第1項の許可

系統連系工事着工申込の様式と提出先

書類のフォーマットは各電力会社のホームページからダウンロードできます。
特定契約を締結している買取事業者に提出します。一般送配電事業者以外と特定契約を結んでいる場合は、当該買取事業者経由で⼀般送配電事業者に申込書が提出されます。
電力会社ごとにフォーマットや提出方法が異なりますので、各社のホームページでご確認ください。

ご注意:「2018年措置」の際も「着工申込」がありましたが、今回は様式が異なります。
「認定失効制度用」の様式の系統連系工事着工申込が必要ですのでご注意ください。

着工申込は必ず行う必要があるのか

着工申込は義務ではありません。運転開始期限内に運転開始できる場合は必要ありません。
運転開始期限⽇(または施⾏⽇)までに運転が開始できない場合、1年以内に運開も着⼯申込もなければ、その時点で失効します。着工申込をしなければ、失効までの猶予期間が短くなることにご留意のうえ、ご判断ください。


以上、2022年4月1日からの認定失効制度をご紹介しました。
これまで未稼働案件に対するさまざまな措置がありましたが、今回の失効制度で、運転を開始しない状況が続けば失効するしくみが整えられました。

少しでも稼働が進むことと、稼働できない案件の系統容量の有効活用につながることを期待します。

※本記事の情報は投稿した時点のものであり、閲覧されている時点で変更されている場合がございます。あらかじめご承知おきください。