
6月初旬の「太陽光パネル、公共建築物は原則設置 住宅は義務化せず 政府が脱炭素に向け素案」という日経新聞の記事をご覧になったかたも多いのではないでしょうか?
6月3日に発表された「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」の素案に「国や地方自治体をはじめとする公的機関が建築主となる住宅・建築物について、新築における太陽光発電設備の設置を標準化する」とあることを受けたものです。
この議論の経緯を簡単にご紹介し、太陽光発電を標準で設置していくことになる公共建築物とはどんな建物で、どの程度の数があるのかについて、統計データをもとにご紹介していきます。
野心的な目標「2013年度比46%削減」
2021年の4月22日に、2030年のCO2削減目標として「2013年度比46%削減」という新しい目標が発表されました。2030年までは時間的余裕が9年しかなく、目標を達成するには急ピッチで脱炭素化を進める必要があります。

小泉環境相「パネル義務化」発言
4月23日には、小泉環境省が新聞社のインタビューに「住宅やビルに太陽光パネルの設置の義務付けを考えるべきだ」と考えを示しました。
短時間で再エネのさらなる普及拡大に迫られるなか、リードタイムが短い太陽光発電の活用がますます重要視されており、「義務化」発言で注目を集めました。
脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会で検討された
国土交通省、経済産業省、環境省が連携して、有識者や実務者等から構成される「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」で、住宅や建築物の脱炭素化について、どのように進めるかが検討されています。
この検討会で住宅やビルへの太陽光パネル導入を義務付けるのか、についても検討されました。
太陽光発電の義務化は賛成派の委員
- 少なくとも新築住宅には義務化をしていくべき
- 住宅屋根を活かすためには消費者の選択を待つのではなく義務化すべき
- PPAモデルが普及すれば義務付けも可能ではないか
- 日当たりによって義務化レベルを変えるとか、パネル設置の方法は様々な選択肢があるということで検討を進めてはどうか
太陽光発電の義務化は慎重派の委員
- 地域や立地等により発電効率に格差があり一律の義務化には無理がある
- 義務化すると個人の負うリスクが顕在化する
- まずは公共建築物等で取組を先行させるべき
- 住宅しか残っていないとなってから義務化すべきではないか
- 太陽光発電備導入に係るコスト増は住宅取得を困難とする
いま義務化するのは難しい
民間の住宅・建築物にも太陽光の導入促進が必要なのは間違いないが、義務化までするとなると、もっと丁寧な制度設計が必要、まずは国や地方自治体をはじめとする公的機関が建築主となる住宅・建築物から太陽光導入を標準化する、という方向で、6月3日に「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」の素案が示されました。
これからさらに検討が進みますが、公共の建築物を建設する際には太陽光発電の設置していく、ということで進むのは間違いないでしょう。
公共の建築物とは?
“国や地方自治体をはじめとする公的機関が建築主となる住宅・建築物”とは、どういった建築物が考えられるでしょうか。
建築着工統計調査の統計データで、2020年度に着工された件数を用途別に見てみましょう。
2020年度 建築主別、用途別 建築着工数
公共:国、都道府県、市区町村が建築主
合計:公共に加えて、会社、会社ではない団体、個人を含む合計
単位:棟
| 公共 | 合計 | |
|---|---|---|
| 住宅 | 1,611 | 458,964 |
| 居住産業併用建築物 | 60 | 5,325 |
| 産業用建築物 | 8,300 | 69,517 |
| ├ 事務所 | 713 | 10,312 |
| ├ 店舗 | 49 | 5,059 |
| ├ 工場及び作業場 | 105 | 6,244 |
| ├ 倉庫 | 990 | 14,953 |
| ├ 学校の校舎 | 1,112 | 1,727 |
| ├ 病院・診療所 | 112 | 1,752 |
| ├ その他 | 5,219 | 29,470 |
| 計 | 9,971 | 533,806 |
出典:e-Stat 政府統計の総合窓口 | 建築着工統計調査
公共の建築物は「事務所」「倉庫」「学校の校舎」が多いようです。
会社、会社ではない団体、個人を含む合計と比較して、公共の建築物に絞ると件数が限られることが分かります。
2020年度 建築主別、構造別 建築着工数
どういった建物が多いのかを類推するため、建築物の構造別の着工数も見てみます。
公共:国、都道府県、市区町村が建築主
合計:公共に加えて、会社、会社ではない団体、個人を含む合計
単位:棟
| 公共 | 合計 | |
|---|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造 | 78 | 494 |
| 鉄筋コンクリート造 | 2,128 | 13,290 |
| 鉄骨造 | 4,937 | 94,907 |
| コンクリートブロック造 | 50 | 720 |
| 木造 | 1,974 | 407,147 |
| その他 | 804 | 17,248 |
| 計 | 9,971 | 533,806 |
出典:e-Stat 政府統計の総合窓口 | 建築着工統計調査
着工数 年別推移
2020年度は1万件弱の着工があったことは分かりましたが、年ごとに異なるでしょうか。
年別の推移を見てみましょう。
公共:国、都道府県、市区町村が建築主
合計:公共に加えて、会社、会社ではない団体、個人を含む合計
単位:棟
| 公共 | 合計 | |
|---|---|---|
| 2011年 | 14,737 | 584,300 |
| 2012年 | 15,373 | 608,770 |
| 2013年 | 16,637 | 676,332 |
| 2014年 | 17,033 | 592,573 |
| 2015年 | 14,528 | 587,153 |
| 2016年 | 13,606 | 609,535 |
| 2017年 | 12,939 | 604,503 |
| 2018年 | 11,973 | 598,154 |
| 2019年 | 11,145 | 599,353 |
| 2020年 | 10,203 | 534,747 |
出典:e-Stat 政府統計の総合窓口 | 建築着工統計調査
ここ数年減少しているように見受けられますね。
平均すると年間14,000件ほどの公共建築物が着工しています。
2020年度 都道府県別着工数
最後に都道府県別の着工数も見てみましょう。
公共:国、都道府県、市区町村が建築主
合計:公共に加えて、会社、会社ではない団体、個人を含む合計
単位:棟
| 公共 | 合計 | |
|---|---|---|
| 北海道 | 623 | 19,917 |
| 青森県 | 187 | 7,374 |
| 岩手県 | 239 | 6,480 |
| 宮城県 | 315 | 10,612 |
| 秋田県 | 137 | 4,796 |
| 山形県 | 114 | 6,014 |
| 福島県 | 252 | 9,702 |
| 茨城県 | 223 | 15,465 |
| 栃木県 | 158 | 10,374 |
| 群馬県 | 112 | 10,443 |
| 埼玉県 | 192 | 33,147 |
| 千葉県 | 291 | 27,947 |
| 東京都 | 579 | 43,508 |
| 神奈川県 | 269 | 33,564 |
| 新潟県 | 165 | 12,445 |
| 富山県 | 111 | 6,898 |
| 石川県 | 83 | 5,525 |
| 福井県 | 81 | 3,967 |
| 山梨県 | 82 | 4,378 |
| 長野県 | 271 | 11,642 |
| 岐阜県 | 174 | 9,743 |
| 静岡県 | 213 | 17,461 |
| 愛知県 | 459 | 35,795 |
| 三重県 | 159 | 8,196 |
| 滋賀県 | 88 | 7,234 |
| 京都府 | 151 | 9,490 |
| 大阪府 | 533 | 27,307 |
| 兵庫県 | 358 | 18,714 |
| 奈良県 | 90 | 4,336 |
| 和歌山県 | 157 | 4,212 |
| 鳥取県 | 88 | 2,554 |
| 島根県 | 138 | 2,900 |
| 岡山県 | 193 | 9,121 |
| 広島県 | 206 | 10,617 |
| 山口県 | 118 | 5,664 |
| 徳島県 | 74 | 3,042 |
| 香川県 | 135 | 4,397 |
| 愛媛県 | 174 | 6,173 |
| 高知県 | 155 | 2,656 |
| 福岡県 | 422 | 18,897 |
| 佐賀県 | 119 | 4,164 |
| 長崎県 | 164 | 4,478 |
| 熊本県 | 268 | 9,234 |
| 大分県 | 113 | 4,952 |
| 宮崎県 | 147 | 5,436 |
| 鹿児島県 | 251 | 7,570 |
| 沖縄県 | 340 | 5,265 |
| 計 | 9,971 | 533,806 |
出典:e-Stat 政府統計の総合窓口 | 建築着工統計調査
ここまで、新築する公共建物の太陽光義務化の経緯のご紹介と、公共建築物にまつわる統計データをご紹介しました。
民間の建物への義務化は見送られましたが、普及拡大が必要なことは確かですので、さらなる支援施策が実施されるかもしれません。引き続き注視してまいりましょう。
参考
脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会 | 国土交通省
e-Stat 政府統計の総合窓口 | 建築着工統計調査
