電気を送る方法は、電気を通す「導線、電線」の使用が一般的です。日本中に張り巡らされた送電網は、発電所から工場や家庭へ、日々電気を送り続けています。昨今、新しい送電方法として電線を使わない大電力の「無線送電」が注目されています。「無線送電」の取り組みの現状と課題、その実用化のメリットを紹介します。
無線送電の種類
無線送電には、「電磁誘導方式」「磁気共鳴方式」「マイクロ波方式」があります。
電磁誘導方式
給電側と受電側の2つのコイルが起こす「磁束」によって送電します。送電電力は数Wから50kW程度で、伝送距離が短く、コイルの位置がズレてしまうと送電の効率が低下します。
スマートフォンや電動歯ブラシなどに利用されています。
磁気共鳴方式
給電側と受電側の2つのコイルが起こす「磁気共鳴」によって送電します。送電電力は数mWから数kW程度で、伝送距離が数メートルと長く、コイルの位置が多少ズレても送電できます。受電トレイや電気自動車への充電システムとして開発が進んでいます。
マイクロ波方式
電気をマイクロ波に変換して送電します。理論上ではGWクラスの大電力の長距離送電が可能です。新しい大規模送電システムとして注目され、技術開発が進んでいます。
大電力を遠隔地へ無線送電できる「マイクロ波方式」
マイクロ波方式の無線送電技術は、さまざまな研究機関によって開発が進められています。その具体的な成果として、宇宙太陽光発電システムを研究している、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、宇宙システム開発利用推進機構、三菱重工業がそれぞれ地上実証実験に成功しています。
●2015年3月8日:送電ユニットから最大1.8kWの電力を55m離れた受電ユニットへ送電し、
受電ユニットで約300Wの電力の変換に成功しました(JAXA発表)。
●2015年3月12日:送電ユニットから最大10kWの電力を500m離れた受電ユニットへ送電
し、LEDライトの点灯に成功しました(三菱重工業発表)。
マイクロ波方式による無線送電の仕組み
マイクロ波は、波長が10cm~0.1mm程度の電磁波の一種で、通信用電波としても利用されています。マイクロ波は、極めて高い指向性があり、雨や雲を透過するため、遠隔地間の送受電に適しています。原理は次の通りです。
1. 送電ユニットで電気をマイクロ波に変換します。
2. 送電ユニットから「マイクロ波ビーム」を受電ユニットへ飛ばします。
3. 受電ユニットで「マイクロ波ビーム」を受けて、電気に変換します。
無線送電の課題と、長距離送電の活用へ
マイクロ波方式による大電力の無線送電には、マイクロ波と電力の変換効率の向上や、マイクロ波ビーム制御の精度向上などの課題があります。
無線送電は、これまで送電線の敷設が難しかった場所などでの活用が見込まれています。
現在、開発が進んでいる洋上風力発電では海底ケーブルを敷設することなく送電できるシステムとして大きく期待されています。
参考: