山口県では、昨年12月から2016年3月までの4ヶ月間、山口市内の山口県農林総合技術センターにて、「太陽光発電と蓄電池をつかった独立電源システム」と「蓄熱技術を用いたイチゴ省エネ暖房技術」とを融合し、ビニールハウス内にてイチゴを栽培する実証実験を行うことを発表しました。
ビニールハウス栽培の2つの課題
今まで、ビニールハウスでイチゴ等の果物を栽培する場合、大きな2つの問題がありました。
1つ目は、栽培の際に燃料価格が高騰した場合、暖房費などのエネルギー代が大きくなり、生産者側が大きなコスト負担を抱えることになるという課題。
2つ目は、暖房設備へ化石燃料を利用することによるCO2排出課題です。今回の実証実験は以上2つの問題を解決するために行われたという背景があります。
山口県では、今回の実証実験でイチゴを栽培し、実際の暖房コストや電気使用量などの数値を測定した結果を用いながら、今後、システム導入効果を検証していくといいます。
それでは、具体的にどのような技術システムを用いているのでしょうか。
相乗効果による新たな施設園芸モデル
山口県では、報道発表にて、施設園芸作物の生産コスト削減の観点から、太陽光発電による再生可能エネルギーを活用した独立電源システムと、農林総合技術センターで開発されたイチゴ栽培の省エネルギー暖房技術とを融合して、化石燃料を使用せず、暖房コストを大幅に削減する新たな施設園芸モデルを実証すると公示しています。単独の技術でなく、複数の技術やシステムを融合した相乗効果により、新たな施設園芸モデルを構築しようとしているのです。
独立電源システムについて
まず、独立電源システムとはどんなものなのでしょう?
独立電源システムとは、離島や電源の無い山奥、岬、道路沿いなど電気配線が面倒な場所に、便利な独立型電源システムです。蓄電池を使い、太陽光発電や風力発電等だけで電力会社の系統と完全独立して使用することができます。
今回、山口県が実証実験に用いる独立電源システムは、フィルム型太陽光発電を冬期未利用ハウスにのばして広げ蓄電池と組み合わせた独立電源システムです。フィルム型太陽光発電パネルを、イチゴを栽培するビニールハウスの上部に設置し、蓄電池に電気を貯蓄します。太陽光の発電出力は1.62kW(キロワット)で、蓄電池の容量は450Ah(アンペア/時)です。
フィルム型太陽光発電と蓄電池を利用した独立電源システム
出典:山口県
イチゴ省エネ暖房技術について
次に、イチゴ省エネ暖房技術とは、何でしょう?
今回の省エネ暖房技術とは、太陽エネルギーの蓄熱利用技術とイチゴのクラウン(株元)部の局所加温用テープヒータの技術とを合わせたものを指しています。
太陽エネルギーの蓄熱利用技術は、日中のハウス内余剰熱を石材に蓄熱し夜に利用するものです。ビニールハウスが日中に太陽光を浴びると、施設内に暖気が貯まります。通常、換気システムで排出してしまうこの熱を、栽培槽の下に設置した栗石(栗石〈ぐりいし〉とは石を打ち割ってつくる石材のこと)の層に蓄熱し再利用するのです。日中に熱をためた栗石は、夜間に放熱を行います。この熱によって気温が低下する夜間でも、暖房機などを使わずにイチゴの株を保温でき、エネルギーを大幅に削減することができます。
太陽エネルギーの蓄熱利用技術
出典:山口県
また、クラウン部局所加温用テープヒータというのは、イチゴのクラウン(株元)部を直接加温できるテープ型のヒータのことです。イチゴの温度感応部位であるクラウン(株元)部を直接加温することで成長促進を図ることにより、ビニールハウス内を暖房機などで暖めるよりも、省エネルギー化を図ることができるのです。
クラウン(株元)部の局所加温用テープヒータ
出典:山口県
太陽光発電と蓄電池を用いて構築した独立電源システムに、石材による蓄熱技術、テープヒータ技術。これら技術融合によって、新しい省エネの施設園芸モデルをつくろうとしている山口県の挑戦の結果に、今後、注目していたいものです。
山口県施設園芸モデルの図
出典:山口県
参考:
- 山口県>報道発表:再生可能エネルギーとイチゴ省エネ暖房技術を融合した、新たな施設園芸モデルの実証について
- 山口県>報道発表:イチゴ栽培の暖房コスト低減を可能とする「テープヒータ」を開発~イチゴが温度を感じる株元部だけを局所加温して暖房コストを低減~
- 山口県 農業技術部園芸作物研究室>イチゴの株元局所加温用「テープヒータ」を活用した省エネルギー暖房技術
- 農林水産省>省エネ型の施設園芸を目指して