今回の保安規制強化に伴い、低圧の太陽光発電に課される2つの届出「基礎情報届出」「使用前自己確認結果届出」について、誰が、どんな設備が、いつ、どのような届出を行う必要があるのかを紹介します。

2023年春から低圧太陽光の保安規制強化 の記事の続報です。

保安規制強化についての概要

10kW以上50kW未満の太陽光発電は「小規模事業用電気工作物」に分類され、

  • 技術基準適合維持
  • 基礎情報届出
  • 使用前自己確認

の義務を新たに負うことになります。
施行日は2023年3月20日。年度末の時期ですので新年度4月1日から始まると思ってしまいがちですが、3月20日から実施する必要がありますのでご注意ください。

罰則

届出を行わない、または虚偽の届出を行った場合、罰則が定められています。
電気事業法第120条第1号(30万円以下の罰金)

第百二十条 次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、三十万円以下の罰金に処する。
 一 第二条の七第二項(第二十七条の二十九及び第二十七条の三十二において準用する場合を含む。)、第二条の八第一項、第七条第四項(第八条第二項において準用する場合を含む。)、第二十条第一項、第二十一条第一項、第二十七条の七の二第四項(第二十七条の七の三第二項において準用する場合を含む。)、第二十七条の十一第一項、第二十七条の十二の六第四項(第二十七条の十二の七第二項において準用する場合を含む。)、第二十七条の十二の十一第一項、第二十七条の二十第一項、第二十七条の二十四第二項、第二十七条の二十五第一項(第二十七条の二十九及び第二十七条の三十二において準用する場合を含む。)、第二十八条の三第一項、第二十九条第一項若しくは第三項、第四十二条第一項若しくは第二項、第四十三条第三項、第四十七条第四項若しくは第五項、第五十一条の二第三項、第五十七条の二第二項又は第七十四条の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。

基礎情報届出

「基礎情報届出」は、所有者情報や設備に係る情報、保安管理を実務的に担う者等の基礎的な情報を届け出ます。

基礎情報届出 届出をすべき対象者

設置者(発電事業者、設備オーナー)
販売、施工事業者やO&M事業者による代行申請はできませんのでご注意ください。

設置者とは?
当該の設備を占有し、維持管理している方を指します。

紛らわしいと思われる第三者所有の例をいくつかご紹介します。
オンサイトPPAの場合(屋根上に0円で設置し、電気代で支払うモデル)
PPAモデルで導入する場合、PPA事業者がメンテナンスなど管理を行っているのが一般的です。
その場合、PPA事業者が設置者として届け出ることになります。

設備をリースで設置している場合
需要家・発電事業者がメンテナンスなど管理しているのが一般的と思われます。
この場合は需要家・発電事業者が設置者として届け出ることになります。

基礎情報届出 対象設備

太陽光発電:10kW以上50kW未満

新設設備/既設設備いずれも
地上設置/屋根上設置いずれも
FIT認定有/無いずれも
売電型/自家消費型いずれも

設備の状況などにより、届出の要否、タイミングが異なります。後述します。

50kW以上の設備は基礎情報届出が不要か?
50kW以上の設備は基礎情報届出は不要です。
50kW以上の高圧設備では「保安規定の策定」や「主任技術者の専任」が義務化されており、この代わりとして設備の情報や設置者の情報、保安体制を確認できる情報を届け出るというのが基礎情報届出の位置付けであるためです。

基礎情報届出 届出事項

(1)設備や設置者に係る基本的情報
設置者 事業者名
代表者名
事業者の住所
電話番号、メールアドレス
設備 電気工作物の名称
電気工作物の種類、出力規模
電気工作物の所在地(住所)
(2)保安体制に係る情報
保安体制 保安管理担当者名、住所、電話番号、電子メールアドレス(保守管理業務の受託者含む)
点検の頻度

基礎情報届出 施行時点の設備の状況による届出要否

全ての10kW〜50kWの設備が届け出る必要があるわけではなく、設備の使用状況などにより届出要否は異なります。以下の3パターンにより設備の状況を確認します。
① 施行(2023年3月20日)以降に使用を開始する設備
② 施行(2023年3月20日)時に既設・使用中のFIT設備
③ 施行(2023年3月20日)時に既設・使用中のFIT認定を受けていない設備

①施行(2023年3月20日)以降に使用を開始する設備

使用開始前

基礎情報の届出が必要です。
使用を開始する前に届け出、受理された後に使用を開始する必要があります。

変更時

以下のような変更をする際は、遅滞なく(=できるだけすぐに)届出が必要。(他のパターンも同じ)

  • 基礎情報に変更があるとき
    例)住所変更や代表者の変更など
  • 小規模事業用電気工作物には該当しなくなるとき
    例)廃止するとき、出力を変更して小規模事業用電気工作物の範囲(10〜50kW未満)外になるとき

②既設・使用中で、FIT認定を受けている設備

施行時

基礎情報届出は不要です。認定で届出済の情報と重複する部分も多く、手続き負担の軽減のため、施行時の届出は不要となりました。

変更時

以下のような変更をする際は、遅滞なく届出が必要。(他のパターンも同じ)

  • 基礎情報に変更があるとき
    例)住所変更や代表者の変更など
  • 小規模事業用電気工作物には該当しなくなるとき
    例)廃止するとき、出力を変更して小規模事業用電気工作物の範囲(10〜50kW未満)外になるとき

FIT認定を受けている設備は、変更がなければ基礎情報届出は不要ということになります。

③既設・使用中で、FIT認定を受けていない設備
例えばすでに使用中の発電電力を全量自家消費する太陽光発電など

施行時

施行から6ヶ月以内(2023年9月19日まで)に基礎情報届出が必要。

変更時

以下のような変更をする際は、遅滞なく届出が必要。(他のパターンも同じ)

  • 基礎情報に変更があるとき
    例)住所変更や代表者の変更など
  • 小規模事業用電気工作物には該当しなくなるとき
    例)廃止するとき、出力を変更して小規模事業用電気工作物の範囲(10〜50kW未満)外になるとき

全量自家消費する発電設備の設置者に、確実に周知されるかが気になるところです。
罰則もある規制ですので、施工された事業者さまなどからフォローされると良いかもしれません。

使用前自己確認結果届出

「使用前自己確認結果届出」は、使用前に技術基準適合性を確認し、その結果を届け出るというもの。

使用前とは
50kW以上の設備は基礎情報届出は不要です。
送配電事業者との連系の前というわけではありません。(連系後でないと確認できない項目もあります。)
正式に使用を開始する前(発電した電力を使用・売電する前)とされています。

使用前自己確認結果届出 届出をすべき対象者

設置者(発電事業者、設備オーナー)
販売、施工事業者やO&M事業者による代行申請はできませんのでご注意ください。

ただし設置者自身が確認スキルを持たないケースも多いと思われます。使用前確認を外部の施工業者やO&M事業者へ委託することは可能です。委託する場合は受託者の情報も届け出ます。
使用前自己確認の実施イメージ

使用前自己確認結果届出 対象設備の要件

使用前自己確認制度は、現行制度では500kW以上が対象であったところ、10〜500kW未満へも対象が拡大します。
50kW以上は500kW以上が現行制度で行なっている使用前自己確認と同様の確認が求められます。
10kW〜50kW未満の設備は電気的なリスクが比較的低いことから、簡略化された確認項目が適用されます。
使用前自己確認結果届出 対象設備の要件

使用前自己確認結果届出 届出が必要な設備

施行(2023年3月20日)以降に…

  • 新設する設備
  • 一定以上の変更の工事を行った既設設備

“使用前”自己確認であるため、基本的に既設ですでに使用中の設備は自己確認結果届出の必要はありません。
ただし今後変更工事を行う際には“使用前自己確認が必要かもしれない”ことをご留意ください。

使用前自己確認結果届出 今後使用前自己確認が必要となる変更

1.構造的リスクを伴う場合(基礎や架台への影響あり)

  • パネルの増設
  • 支持物(基礎・架台)を含む取替え
  • 支持物の強度の変更
  • 支持物の強度に影響のある修理

上記の変更を行う場合、全て使用前自己確認が必要です。 
確認箇所は変更の工事をした部分のみです。

2.電気的リスクに限定される場合

  • 太陽光パネルのみ(※架台や基礎の変更を含まない)の交換で、5%以上の出力変更を伴う変更
  • 20%以上の電圧が変更となる改造

上記の変更を行う場合、使用前自己確認が必要です。 
確認箇所は変更の工事をした部分のみです。

届出方法

基礎情報、使用前自己確認結果の届出は、

のいずれでも可能です。
曜日や時間に関係なく申請でき、再提出や変更、これまでの履歴の確認などができるオンライン申請について、概要をご紹介します。

保安ネット

経産省の運営する「保安ネット」から届け出ます。

保安ネットとは
産業保安・製品安全関連法令に関する申請手続をオンラインでできるシステムです。
電気事業法の「基礎情報届出」「使用前自己確認結果届出」だけではなく、ガスなど産業保安などに関わる他の届出も含むシステムです。

gBizID(GビズID)

保安ネットへログインするID、パスワードはGビズIDで取得します。

GビズIDとは
複数の行政サービスを1つのID・パスワードで利用できる法人・個人事業主向け認証システムです。
基礎情報届出、使用前自己確認結果届出をオンラインで届け出る際にGビズIDのアカウントをまだ取得していなければ新たに取得し、そのID、パスワードで保安ネットにログインします。
GビズID利用イメージ

GビズID利用イメージ 出典:GビズID 弊社で一部加筆

GビズIDのアカウントは3種類

gBizIDエントリー オンラインで即日作成可能なアカウント。手軽に使い始められる反面、利用できる内容に制限があります。
gBizIDプライム 印鑑証明書(個人事業主は印鑑登録証明書)と登録印鑑で押印した申請書を運用センターに郵送し、審査(原則2週間以内)ののち作成される、法人代表者もしくは個人事業主のアカウント。発行までに手間、時間がかかりますが、利用できる行政サービスが多数あります。
└ gBizIDメンバー 組織の従業員用アカウントとして、gBizIDプライムの利用者が自身のマイページで作成するアカウント。

利用する行政手続きにより、必要なアカウントが異なります。
「基礎情報届出」「使用前自己確認結果届出」を行うだけであれば、すぐに発行できるgBizIDエントリーでも可能です。

プライムのメリットとしては、

  • 複数の従業員が、複数の申請を担当するような場合、会社としてまとめて管理できる。
  • 他の行政手続き(補助金申請など)にも使える場合が多い。

などがあります。
申請時に印鑑証明書、審査に2週間はかかるなど、手間と時間がかかりますので、余裕をもってとりかかりましょう。

パターン別必要な対応

なるべく単純化してご説明してきたつもりですが、かなり長くなってきました。
“結局自分は何をすべきなのか?”とお感じの方もおられるかもしれません。
一般的な太陽光発電の4パターンで、どんな時に届出が必要になるのかをご説明します。

屋根上に10kW未満の太陽光発電を設置しているご家庭、事業所など

※FIT余剰売電/全量自家消費問わず、野立て/屋根上問わず

  1. 基礎情報届出…不要
  2. 使用前自己確認結果届出…不要(10kW未満のままであれば)

今回ご紹介する届出は10kW以上の設備が対象ですので、現在使用中、これから新設する、いずれの設置者も今回追加された届出は不要です。
ただし使用中の設備を増設により10kW以上とする場合等は、基礎情報届出、使用前自己確認結果届出が必要となります。

10kW以上50kW未満の太陽光発電設備で、FIT認定を受け売電中の発電事業者(既設・使用中)

※全量売電/余剰売電問わず、野立て/屋根上問わず

  1. 基礎情報届出…施行時の届出は不要です。
    施行以降に基礎情報(所有者情報や設備、保安管理に係る情報)に変更がある時には届出が必要です。
  2. 使用前自己確認結果届出…施行時の届出は不要です。
    ただしパネルの増設など一定の変更工事を行う行う場合は、使用前自己確認の実施、結果届出が必要です。

10kW以上50kW未満の太陽光発電設備で、発電電力を全量自家消費している需要家(既設・使用中)

  1. 基礎情報届出…施行から6ヶ月以内(2023年9月19日まで)に基礎情報届出が必要。
    施行以降に基礎情報に変更がある時にも届出が必要です。
  2. 使用前自己確認結果届出…施行時の届出は不要です。
    ただしパネルの増設など一定の変更工事を行う行う場合は、使用前自己確認の実施、結果届出が必要です。

これから10kW以上50kW未満の太陽光発電設備を使用開始する発電事業者、需要家など(新設)

※FIT売電/全量自家消費問わず、野立て/屋根上問わず

  1. 基礎情報届出…使用を開始する前に届け出が必要。受理された後に使用を開始する必要があります。
    施行以降に基礎情報に変更がある時にも届出が必要です。
  2. 使用前自己確認結果届出…使用を開始する前に確認の実施、結果届出が必要です。受理された後に使用を開始する必要があります。
    またパネルの増設など一定の変更工事を行う行う場合にも、使用前自己確認の実施、結果届出が必要です。

参考:小出力発電設備の保安人材育成等事業 | 経済産業省

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