太陽光発電は、FIT制度が始まってからは全量売電するのが主流でしたが、現在は自家消費型太陽光発電が注目を集めています。政策や補助金の動向からも、日本全体として自家消費型太陽光発電に注力していくことが分かります。
それに伴い、太陽光発電システムの提案には「受電契約」や「電気料金」についての知識が必要となりました。
工場やビルなど産業用の電力プランや電気料金は、馴染みがなくややこしいと感じることも多いですので、このブログでも少しずつ紹介していきます。
「◯◯電力は電気代が安い」「低圧より高圧の方が電気代が安い」といった情報をすでにご存知の方も多いでしょう。この記事では、本当に差があるのか、どれくらい違うのかを、統計データをまとめたグラフでお示しします。
- 低圧、高圧、特別高圧etc.の受電契約ごとの電力量平均単価
- エリアごとの電力量平均単価
を見ていきます。
電力量平均単価の算出方法
電力・ガス取引監視等委員会が公表している「電力取引の状況」を元に算出。
「電力取引の状況」は、供給区域ごと、受電規模ごとの「販売額」や「販売電力量」や「契約口数」などを含む統計データで、毎月公表されています。
「みなし小売電気事業者(=旧一般電気事業者)」「新電力」で分けて記載されていますが、今回は合計して集計しました。
また契約区分ごとに基本料金の仕組みや金額が異なるため、料金プランの「電力料金単価」だけでは比較しにくいこともあり、「基本料金」や「燃料費調整単価」も含めています。
「電力取引の状況」には再エネ賦課金が含まれていないため、集計する際に私たちでその時期の再エネ賦課金を足して計算しました。
参考:電力取引の状況(電力取引報結果) | 電力・ガス取引監視等委員会
受電契約区分
受電契約の区分は「特別高圧」「高圧」「低圧電灯」「低圧電力」の4つに分けてご紹介します。
本題に入る前に簡単に分類を説明しておきます。
くわしくは、今さら聞けない「高圧」「低圧」受電契約の違い でご確認ください。
大規模な工場などで利用される「特別高圧」は22,000Vや66,000Vなど超高圧で受電します。契約電力の目安は2,000kW以上です。
6,600Vで受電する「高圧」は中規模の工場やビルで利用されます。契約電力の目安は50kW以上です。
住宅や小規模な店舗、事業所は「低圧」で受電します。一般的な電化製品用の「低圧電灯」、業務用エアコンやモーターなど用の「低圧電力」に分かれます。
発電所から超高圧で送られた電力を、あまり加工されない状態で受電する「特別高圧」は単価が安め、すぐ使える電気に加工されて届く「低圧」は単価が高めになります。
受電契約による違い
エリアごとに、受電契約ごとにどれほど違いがあるか見ていきます。
全国平均
特別高圧 | 13.39円/kWh |
高圧 | 17.21円/kWh |
低圧電灯 | 23.74円/kWh |
低圧電力 | 29.69円/kWh |
「低圧電力」は「低圧電灯」より1kWhあたりの電力量単価が安いのではないかと、疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この集計は基本料金を含んで平均値を出していますが、低圧電力の基本料金の設定が高めなため、1kWhあたりの平均を出すと低圧電灯よりも高い結果となりました。
特に5月は業務用エアコンなど低圧電力で使う機器の使用が減少する時期と思われ、低圧電力の使用量が年間で最も少ないため、低圧電灯との差が大きくなりました。
北海道電力エリア
特別高圧 | 16.95円/kWh | (対平均 +3.56円/kWh) |
高圧 | 20.09円/kWh | (対平均 +2.89円/kWh) |
低圧電灯 | 27.08円/kWh | (対平均 +3.34円/kWh) |
低圧電力 | 27.12円/kWh | (対平均 -2.57円/kWh) |
全体的に全国平均より2〜3円高め。低圧電力の季節による変動が他エリアよりかなり大きく、冬は高圧並みの安さに。
電気代が高い理由として、北海道電力管内は面積が広く人口密度が低い、積雪や寒さなど自然条件が厳しいなどにより、電気を利用者のところへ届ける手間・コストがかかることが考えられます。
東北電力エリア
特別高圧 | 13.49円/kWh | (対平均 +0.10円/kWh) |
高圧 | 18.14円/kWh | (対平均 +0.94円/kWh) |
低圧電灯 | 25.27円/kWh | (対平均 +1.53円/kWh) |
低圧電力 | 30.01円/kWh | (対平均 +0.32円/kWh) |
東京電力エリア
特別高圧 | 14.34円/kWh | (対平均 +0.95円/kWh) |
高圧 | 17.75円/kWh | (対平均 +0.54円/kWh) |
低圧電灯 | 25.10円/kWh | (対平均 +1.36円/kWh) |
低圧電力 | 30.94円/kWh | (対平均 +1.26円/kWh) |
中部電力エリア
特別高圧 | 13.53円/kWh | (対平均 +0.14円/kWh) |
高圧 | 16.64円/kWh | (対平均 -0.56円/kWh) |
低圧電灯 | 23.68円/kWh | (対平均 -0.06円/kWh) |
低圧電力 | 28.32円/kWh | (対平均 -1.37円/kWh) |
北陸電力エリア
特別高圧 | 12.88円/kWh | (対平均 -0.51円/kWh) |
高圧 | 17.24円/kWh | (対平均 +0.03円/kWh) |
低圧電灯 | 21.61円/kWh | (対平均 -2.14円/kWh) |
低圧電力 | 28.44円/kWh | (対平均 -1.25円/kWh) |
低圧電灯が全国平均よりかなり低め。高圧、特別高圧も以前は平均をかなり下回っていましたが、近年は全国平均に近づいているように見えます。
北陸電力の料金が安い理由のひとつは、水力発電が多く、燃料費が少なくて済むことが挙げられます。火力発電のうち、燃料費の安い石炭を使った発電の割合が高いことも原因と考えられます。
関西電力エリア
特別高圧 | 13.98円/kWh | (対平均 +0.59円/kWh) |
高圧 | 17.68円/kWh | (対平均 +0.47円/kWh) |
低圧電灯 | 22.97円/kWh | (対平均 -0.77円/kWh) |
低圧電力 | 31.55円/kWh | (対平均 +1.86円/kWh) |
中国電力エリア
特別高圧 | 12.74円/kWh | (対平均 -0.65円/kWh) |
高圧 | 16.92円/kWh | (対平均 -0.28円/kWh) |
低圧電灯 | 22.49円/kWh | (対平均 -1.25円/kWh) |
低圧電力 | 32.02円/kWh | (対平均 +2.33円/kWh) |
四国電力エリア
特別高圧 | 13.63円/kWh | (対平均 +0.24円/kWh) |
高圧 | 17.59円/kWh | (対平均 +0.38円/kWh) |
低圧電灯 | 22.99円/kWh | (対平均 -0.75円/kWh) |
低圧電力 | 29.72円/kWh | (対平均 +0.04円/kWh) |
九州電力エリア
特別高圧 | 12.76円/kWh | (対平均 -0.63円/kWh) |
高圧 | 17.02円/kWh | (対平均 -0.18円/kWh) |
低圧電灯 | 23.27円/kWh | (対平均 -0.47円/kWh) |
低圧電力 | 29.61円/kWh | (対平均 -0.08円/kWh) |
沖縄電力エリア
特別高圧 | 17.08円/kWh | (対平均 +3.69円/kWh) |
高圧 | 20.49円/kWh | (対平均 +3.28円/kWh) |
低圧電灯 | 24.75円/kWh | (対平均 +1.01円/kWh) |
低圧電力 | 30.85円/kWh | (対平均 +1.17円/kWh) |
全体的に全国平均より高め。特に高圧、特別高圧が平均より3〜4円ほど上回っています。
沖縄は点在する多数の島々で構成されており、地理的な条件から水力発電なども利用できないこともあり、化石燃料を使用する火力発電をメインに供給していることが、電気料金が他のエリアに比べて高くなりがちな理由の一つとして考えられます。
エリアによる違い
受電契約の区分ごとに、エリアでどれほど違いがあるか見ていきます。
特別高圧
北海道、沖縄が飛び抜けて高めです。時期により変動がありますが、2021年5月時点では中国電力の平均単価が最も安くなりました。
2021年5月(全国平均:13.39円/kWh)
最も高い:沖縄 17.08円/kWh
最も安い:中国 12.74円/kWh
差:4.34円/kWh
高圧
2021年5月(全国平均:17.21円/kWh)
最も高い:沖縄 20.49円/kWh
最も安い:中部 16.64円/kWh
差:3.85円/kWh
低圧電灯
北海道が飛び抜けて高く、北陸が飛び抜けて安い。
2021年5月(全国平均:23.74円/kWh)
最も高い:北海道 27.08円/kWh
最も安い:北陸 21.61円/kWh
差:5.48円/kWh
低圧電力
2021年5月(全国平均:29.69円/kWh)
最も高い:中国 32.02円/kWh
最も安い:北海道 27.12円/kWh
差:4.9円/kWh
全国的な電力料金の傾向
家庭向けの電気料金平均単価は10年で約22%上昇、産業向けの電気料金平均単価は10年で約25%上昇しています。
電気料金の変動する要因の1つとして、燃料価格に影響を受けることが挙げられます。
電気代平均単価の推移は、原油価格の動きに概ね追従しています。
東日本大震災以降、電気料金は上昇傾向にありましたが、2010年代半ばから、アメリカのシェールオイルの生産などにより供給過剰となり価格が下落した「シェール革命」に伴って一時低下します。
その後OPECプラスの減産合意や中東情勢の緊迫化などから原油価格が上昇し、電気料金も再び上昇傾向にあります。
日本のエネルギー自給率は12%ほど(2018年)しかなく、中東情勢などに大きな影響を受けがちで、電気料金の値上がりリスクがあります。
2012年に始まったFIT制度により再エネ設備の導入が加速しました。特に太陽光発電が導入が進み、導入コストの低下などに貢献してきましたが、電気利用量に応じて需要家から徴収される再エネ賦課金は上昇しています。
買取費用の増加とともに、2012年度には0.22円/kWhだった賦課金単価も上昇し、2021年度は3.36円/kWhに上っています。
再エネ賦課金は今後もしばらく上昇することが見込まれるため、電気料金の値上がり要因となります。
まとめ
「エリア」や「受電契約」により電気料金単価がどれだけ違うかを見てきました。特に受電エリアによって1kWhあたり5円以上の差があるなど、大きな違いがあることが分かりました。
また、受電エリアによらず全体的な電気代上昇リスクとして、日本のエネルギー自給率の低さに起因して中東情勢などに影響を受けやすいこと、再エネ賦課金もしばらくは上昇する、といった要因があることをご紹介しました。
電気代上昇対策のひとつとして自家消費型の太陽光発電が有効です。
立地や建物などの条件により全ての家庭や事業者が活用できるわけではありません。条件が合うのであれば導入の検討をお勧めします。