2050年カーボンニュートラルの実現に向けさまざまな取り組みが進むなかで、市町村などの地域ごとに脱炭素に取り組む動きが見られます。
6月に決まった「地域脱炭素ロードマップ」の紹介をしながら、なぜ地域で取り組むのかの背景をご紹介します。

地域脱炭素ロードマップとは

地域脱炭素ロードマップは、地域の成長戦略ともなる脱炭素の工程と具体策を、特に2030年までに集中して行う取り組みを中心にとりまとめたもの。
2021年6月9日に、国・地方脱炭素実現会議(脱炭素社会の実現に向けて検討や議論の取りまとめが行われる会議)で決まりました。
「地方からはじまる、次の時代への移行戦略」とサブタイトルが付けられています。
参考:国・地方脱炭素実現会議 | 内閣官房

なぜ“地域”で取り組むのか

なぜ脱炭素を地域で取り組むのか、それは地域脱炭素が、地域の課題を解決し、地域の魅力と質を向上させる地方創生に貢献できるから、と言えます。

脱炭素は地域の成長戦略になる

1つめの理由として「脱炭素は地域の成長戦略になる」ということが挙げられます。
新型コロナウイルス感染症流行からの経済復興においても、世界の多くの国や地域で、持続可能で脱炭素な方向の復興が重視されています。例えば、電動自動車への急速な転換など、脱炭素への移行が加速しています。
環境対策は経済的に負担のあるものではなく、もはや経済成長の源泉なのです。
そうした世界の潮流に乗り遅れれば、国内産業や国力の衰退にもつながりかねません。
地域経済でも同様に、脱炭素をできるだけ早期に実現することが、地域の企業立地・投資上の魅力を高め、地域の産業の競争力を維持向上させるなど、地域の成長戦略において、極めて重要な要素になっていくのです。

再エネ等地域資源の活用で課題解決に貢献する

2つめの理由として、「再エネ等の地域資源を最大源活用することにより、地域の課題解決に貢献できる」ことが挙げられます。課題はいろいろありますが、以下に2つほど例示します。

エネルギー収支の赤字の解消につながる

地域外へ支払うエネルギー代金と、地域内で受け取るエネルギー代金の収支を算出したところ、9割の市町村で域外への支出が上回る「エネルギー収支が赤字」となりました。
下図「各自治体の地域内総生産に対するエネルギー収支の比率」はエネルギー収支を示していて、オレンジ色の地域はエネルギー代金の域外への支出が多い「赤字」の地域です。色が濃いほど地域内総生産に対する赤字額の率が高いことを示しています。ほどんどの市町村はエネルギー代金の域内外収支は赤字ということが分かります。

各自治体の地域内総生産に対するエネルギー収支の比率

令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 | 環境省

一方下図の「再生可能エネルギーの導入ポテンシャル」は、地域内の需要に対して、再エネをどれだけ供給できるかを示しています。
地域内の需要を上回り、地域外へ再エネを販売できるほど、再エネ供給力を持つエリアが青色で示されています。再エネでほぼ自給できるエリアが緑、需要が多く他エリアからの再エネの供給を受ける必要があるエリアがオレンジです。青や緑の地域が多く、再エネで自給できる以上のポテンシャルを持つ地域がたくさんあることが分かります。
とくに地方で豊富な再エネ資源を活用し、地産地消を強化すれば、エネルギー収支を黒字化できる、と言えます。
エネルギー収支を改善して、収益を地域内で再投資することで、新たな産業と雇用を生み、地域経済の好循環をもたらすことが期待できます。

再生可能エネルギーの導入ポテンシャル

出典:令和元年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 | 環境省

防災や暮らしの質の向上に貢献できる

次に「防災や暮らしの質の向上に貢献できる」ことが挙げられます。
再エネ等の分散型エネルギー導入は非常時のエネルギー源確保につながります。
断熱性や気密性を向上した快適な住まいの実現や、再エネを活用したMaaS※1(Mobility as a Service)等の新しい交通システムを整備することにより、高齢者等を含めた地域住民の暮らしを支える移動手段の確保につながります。
頻発・激甚化する災害に強い地域づくりや、高齢化が進むなか、地域住民の健康の維持と暮らしの改善、といった取り組みにつなげることができるのです。

※2 MaaS:マース(Mobility as a Service)。利用者の移動ニーズに対応し、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス。

地域脱炭素ロードマップ 対策・施策

地域脱炭素ロードマップで示されている、具体的な対策、施策についてご紹介します。

地域脱炭素ロードマップの全体像

地域脱炭素ロードマップの全体像

出典:地域脱炭素ロードマップ(概要)

5年間で集中的に
・少なくとも100か所の脱炭素先行地域を創出
・脱炭素の基盤となる重点対策を全国津々浦々で実施

が行われます。イノベーション(技術革新)を待たずに、今ある技術でどんどん進めます。

また「脱炭素先行地域をつくる」と「脱炭素の基盤となる重点対策の全国実施」を後押しするための「基盤的施策」も並行して実施されます。
基盤的施策の内容は、「支援メカニズムの構築」や、「ライフスタイルやルールのイノベーション」などとなり、ここではあまり詳しくふれませんが、ご興味があれば、地域脱炭素ロードマップでご確認ください。

脱炭素先行地域をつくる

脱炭素先行地域は、地域脱炭素ロードマップの中で示された脱炭素に先行して取り組む地域のこと。
先行地域は、2025年度までに先行的な取組実施の道筋をつけ、2030年度まで実行する、集中的な取り組みを実施することになります。
2030年までに少なくとも100か所の脱炭素先行地域が創出されます。
2022年1月頃から公募を開始し、来春には第1弾として20〜30ヵ所程度が選定・公表される予定です。
新たに創設される予定の脱炭素を支援する「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」などの交付金は、優先して脱炭素先行地域へ配分される見込みです。
参考:地域脱炭素移行・再エネ推進交付金

重点対策を全国で実施する

脱炭素の基盤となる重点対策について、地方自治体・地域企業・市民などの地域の関係者が主体となって実施し、各地の創意工夫を横展開しながら、脱炭素先行地域も含めて全国で実施するものです。国はガイドライン策定や積極的支援メカニズムにより協力します。

重点対策は次の8つです。

  1. 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
  2. 地域共生・地域裨益(ひえき)型再エネの立地
  3. 公共施設など業務ビル等における徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
  4. 住宅・建築物の省エネ性能等の向上
  5. ゼロカーボン・ドライブ(再エネ電気×EV/PHEV/FCV)
  6. 資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
  7. コンパクト・プラス・ネットワーク等による脱炭素型まちづくり
  8. 食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立

このなかで、とくに太陽光発電に関連が大きい

  1. 屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
  2. 地域共生・地域裨益(ひえき)型再エネの立地

について、さらにくわしくご紹介します。

1.屋根置きなど自家消費型の太陽光発電

自家消費型の太陽光発電は、系統制約や土地造成の環境負荷等の課題が小さい、蓄エネ設備と組み合わせることで災害時や悪天候時の非常用電源を確保することができる、などのメリットがあり、地域の脱炭素化で取り組みやすく、重点対策に位置づけられています。
導入検討や設置期間も比較的短く、今ある技術で短期間で目に見える成果を出しやすいため、地域脱炭素ロードマップのような短期間で集中的に取り組む必要がある施策において実施しやすいとも言えるでしょう。

考えられる創意工夫例
  • PPAモデルやリース契約による初期投資ゼロでの屋根等への太陽光発電設備の導入
  • 駐車場を活用した太陽光発電付きカーポート(ソーラーカーポート)
  • 定置型蓄電池やEV/PHEV、給湯機器等と組み合わせることによる再エネ利用率の拡大

等が挙げられています。

どういった状況を目標に描いているか
  • 政府及び自治体の建築物及び土地では、2030年には設置可能な建築物等の約50%に太陽光発電設備が導入され、2040年には100%導入されていることを目指す。
  • 2050年までに、電気を「買う」から「作る」が標準になり、全ての家庭が自給自足する脱炭素なエネルギーのプロシューマー※2になっていることを目指す

等が挙げられています。
今後短期間で、公共建築物にどんどん自家消費型太陽光発電が導入されていくことになるでしょう。
また住宅についても、戸建て住宅の屋根上だけではなく、集合住宅への設置や、駐車場へのソーラーカーポートの設置が進むことが予想されます。

※2 プロシューマー:prosumer。生産者 (producer) と消費者 (consumer) とを組み合わせた造語で、生産にも関わる消費者、生産消費者のこと。

2.地域共生・地域裨益型再エネの立地

裨益(ひえき)とは「助けになる、役立つ」という意味です。
地域と共生し、地域の助けとなり、役立つ再エネの立地についても重視されているということですね。

考えられる創意工夫例
  • 営農型太陽光発電など一次産業と再エネの組合せ
  • 未利用地や営農が見込まれない荒廃農地、ため池、廃棄物最終処分場等の有効活用
  • 地元企業による設備工事の施工
  • 地域金融機関の出資等による収益の地域への還流
  • 既存の系統線や自営線等を活用した再エネの地産地消・面的利用

ここ数年、再エネ設備の導入の際に、景観上、防災上の観点で地元と衝突するニュースをよく見かけます。
こうしたケースは再エネ導入の阻害要因ともなりえるため、立地に関する取りまとめはさらなる再エネ導入に欠かせません。
再エネポテンシャルを最大限に活かし、関係各所が連携して再エネ促進区域を選定(ポジティブゾーニング)するなどにより、地域と共生でき、地域の役に立てる再エネ事業が進めやすくなるのではないでしょうか。

地域の実施体制

地域の体制構築

出典:地域脱炭素ロードマップ(概要)

地域において、地方自治体・金融機関・中核企業等が主体的に参画した体制を構築し、地域課題の解決に資する脱炭素化の事業や政策を企画・実行します。上図の中心の丸の部分です。
こうした中心となる体制に、施策ごとに幅広い関係者、例えば、電気・ガス・石油事業者、学校・病院など公共施設、商業施設・小売店、工務店・工事店などが参画することになります。

まとめ

地域脱炭素ロードマップについてご紹介しました。
このロードマップを通して、脱炭素は単なる環境政策ではなく、地域の成長戦略になり、地域資源の活用で課題解決にも貢献する面もある、ということがよく分かりました。
市町村などの自治体だけが実施するものではなく、地元の企業や金融機関などを中心に、さまざまな関係者が参画して実施されるものです。太陽光発電の提案や施工に従事している事業者のみなさんにとっても、新たなビジネスチャンスといえるでしょう。

参考:
国・地方脱炭素実現会議 | 内閣官房

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