2021年4月1日に電気事業法が改正され、事故報告を義務付ける対象が追加されました。
全国に60万件以上ある低圧太陽光発電も新たに対象となりました。
低圧太陽光発電をお持ちの発電事業者さんは、これまで電気保安について考えていなかった方がほとんどなのではないでしょうか。
事故報告と言われても戸惑うことも多いと思われますが、安全に関わることですので、発電事業者の義務として対応しなければなりません。
事故を発生させないのが一番ですが、もし万が一発生したときのために、どんな事故のときに、どういった報告が必要かなどの知識をもっておきましょう。
事故報告の対象が広げられた背景
低圧の太陽光発電は高圧と比べて圧倒的に多数です。FITでの導入設備数を比較してみるとよく分かります。
出典:資源エネルギー庁再エネ発電設備の都道府県別認定・導入量(2020年9月末)
10kW以上50kW未満の太陽光 | 619,083件 |
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50kW以上の太陽光 | 32,882件 |
しかし発電規模が小さいからといって、社会的影響を及ぼす規模の事故がないわけではありません。
2018年には低圧太陽光設備の崩落による影響で山陽新幹線が一時運転を見合わせるような事故も発生しています。
そのため、事故情報をしっかり収集し、事故原因の究明や再発防止策を講じることが必要となった、というのが今回の変更の背景です。
新たに事故報告が義務付けられた対象
今回、事故報告義務がある設備に追加されたのは「10kW以上50kW未満の太陽光発電」と「20kW未満の風力発電」です。
この記事では太陽光発電部分を中心にご説明します。
10kW以上の太陽光はすべて対象
低圧太陽光というと、全量売電の野立ての設備を思い浮かべますが、10kW以上であれば、建物の屋根上に設置した余剰売電型の太陽光発電も対象となります。
またFIT認定設備だけではなく、自家消費型の太陽光発電も対象ですので注意してください。
報告の義務を怠ったら…
事故報告を期限内に提出しなかった、または虚偽の報告をした場合、三十万円以下の罰金に処される可能性も。
やむを得ない事由により期限内に報告できなかった場合は、直ちに罰則の対象となるわけではありません。
報告が必要な事故
事故報告が必要な事故は以下の4項目です。
- 感電などによる死傷事故
- 電気火災事故
- 他の物件への損傷事故
- 主要電気工作物の破損事故
1.感電などによる死傷事故
感電や設備の破損、誤操作などによって人が死亡もしくは入院した場合。
運転開始後だけではなく、工事中、試運転中、点検中に発生した死傷事故も対象です。
2.電気火災事故
太陽光発電設備が原因で発生した火災によって、他人の財産に損害を与えた事故。
漏電、短絡等による発熱、発火が原因で、建造物、車両、その他の工作物、山林等に火災を起こさせたもの。
運転開始後だけではなく、工事中、試運転中、点検中に発生した事故も対象になります。
電気的な異常により発生した火災でも、自分の発電所内の損傷で済んだ場合は、「2.電気火災事故」ではなく、このあと出てくる「4.主要電気工作物の破損事故」として扱われます。
3.他の物件への損傷事故
太陽光発電設備の破損や誤操作により、他人の物件に被害を与えた事故。
太陽光パネルが敷地外(柵外)に飛散した場合や、敷地内の土砂崩れ等による道路等の閉塞、交通の阻害等が対象。
パネル1枚が敷地外へ飛ばされた!といった、損傷の規模が比較的小さいと思われるケースでも、この事故にあたり、報告が必要となる場合がありますのでご注意ください。
また台風、大雪、豪雨、地震など、自然現象が原因で、発電事業者の落ち度はないと感じたとしても、事故の報告は行う必要があります。公衆安全の観点からも必要なことですので、ご留意ください。
こちらも運転開始後だけではなく、工事中、試運転中、点検中に発生した事故も対象になります。
主要電気工作物の破損事故
主要電気工作物の破損により、運転停止または使用が不可能となった事故。
変形、損傷もしくは破壊、火災又は絶縁劣化もしくは絶縁破壊によって、
「直ちに、その運転が停止し、もしくはその運転を停止しなければならなくなること」
又は
「その使用が不可能となり、もしくはその使用を中止すること」
が対象となります。
主要電気工作物とは、以下の機器が該当します。
10kW以上の太陽電池モジュール(パネル)及び支持物、逆変換装置(1台あたり容量10kVA以上)、変圧器、負荷時電圧調整器、負荷時電圧位相調整器、調速機、電力用コンデンサー、分路リアクトル及び限流リアクトル、周波数変換器、整流器、遮断器
故障?事故?
どこまでが単なる「故障」で、どこからが「事故」なのかの判断が難しいかもしれません。
経産省のホームページで詳細なQ&A集が公表されていますのでご参考になさってください。
少しだけ例示しますと、パネルの損壊であれば「半壊」以上の損壊が破損事故となります。
「半壊」とは損壊の程度が20%以上70%程度と明示されています。
「強風で飛来物が衝突した」などにより複数のパネルにヒビが入ったといった場合、全パネルのうちの20%以上かどうかがポイントになるかもしれません。
また落雷でパワコン内部が焼損した、ということも起こりがちですが、逆変換装置は「1台あたり容量10kVA以上」が対象となりますので、使用しているパワコンにより事故報告の必要があるかどうか分かれるでしょう。
報告時期と報告方法
報告の時期と内容により2つの報告方式があり、いずれも行う必要があります。
事故を知ったときから
・24時間以内に事故の概要(速報)
・30日以内に事故の詳細(詳報)
の報告が必要です。
速報(24時間以内)
電話、メール、FAXのいずれかで報告
報告項目 | 例 |
---|---|
いつ | ○○年○○月○○日 ○時○分 |
どこで | ○○県○○市○○町1-2-3 |
なにが | 太陽電池発電設備 出力:49.5kW |
どうなった | 事故の概要、他に及ぼした障害、被害者など |
定められた書式(フォーマット)はありませんので、24時間以内に報告できる内容を、報告できる方法で行うことが肝要。
どういった内容を報告すべきなのか、予めもう少し詳しく知りたいとお考えの方もおられると思いますが、経産省のホームページに参考様式が掲載されていますので、ご参考になさってください。
詳報(30日以内)
インターネット上の「詳報作成支援システム」を利用して報告書を作成します。
必要事項を入力することで報告書を作成できます。作成したPDFファイルとXMLファイルをメール等に添付して報告します。
参考:詳報作成支援システム | 製品評価技術基盤機構(NITE)
報告先
発電設備所在地を管轄する産業保安監督部へ報告します。
産業保安監督部とは、経済産業省の地方の部局の一つで、電力の安全などの産業保安分野を所管する部門です。
経産省のホームページに産業保安監督部の一覧が掲載されており、各報告先の・管轄区域・連絡先(電話番号、FAX番号、メールアドレス)を確認できます。
参考:2021年4月1日より、小出力発電設備についても事故報告が義務化になります。| 経済産業省