昨年(2015年)12月1日、資源エネルギー庁は、住宅用など低圧供給の顧客を対象とし、東京電力・北陸電力・中国電力・沖縄電力の4電力会社からの料金改定の届出を受理したことを発表しました。この発表を受け、東京電力・北陸電力・中国電力は今年の6月1日から、沖縄電力は8月1日から、使用料金に応じた電気代の値上げを実施し、その額は標準家庭で月額12~26円だと言われています。
実はこの値上げ、「地球温暖化対策税」の税率引き上げに伴ったものであることを、みなさんはご存知でしょうか。
「地球温暖化対策税」って?
あまり聞き慣れないですが、「地球温暖化対策税」とは何なのでしょうか。
ひと言でいえば、二酸化炭素(CO2)の抑制を図るため導入された税のことです。全化石燃料に対しかかっていて、税率は二酸化炭素の排出量に応じて変化をします。
兼ねてから、地球温暖化の大きな原因となっている温室効果ガス。その大部分を占めるのが、石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料から排出される二酸化炭素です。
この「地球温暖化対策税」は、2012年10月1日から、火力発電や自動車の走行など化石燃料の利用に伴うCO2排出量を抑制し、地球温暖化対策を強化するため導入されました。もともとは、原油・石油製品やガス・石炭に対しかかっていた「石油石炭税」という名称でしたが、「地球温暖化対策のための石油石炭税の税率の特例」が設けられた際、「地球温暖化対策税」と名前を変え増税され、適用されることとなったという経緯があります。
なお、この税は、国民の急激な負担になることを避けるため、3年半をかけて3段階で実施されるということになりました。今回の電気代引き上げの原因である地球温暖化対策税の引き上げは、3段階目…つまり最終段階の税率引き上げとなります。ちなみに、CO2排出量1トン(1トンのCO2は、家族4人で東京〜長崎を往復したときのCO2排出量に相当)当たりで、289円の税が最終的にかかってくることとなります。
経済活動への影響や費用対効果の不明瞭さ、国民負担への懸念から、一部の産業界からの「地球温暖化対策税」への評価は導入当初から低く、反対の声が挙がっていることもまた事実です。
それでは、具体的な電気代の値上げ額はいくらなのでしょうか。
詳細について触れていきます。
具体的な電気代値上げ額は?
今回電気代の引き上げを行う4電力会社のうち、標準的な家庭の一カ月あたりの値上げ額として最も高額なのは、東京電力の26円となります。次に、中国電力の18円、北陸電力・沖縄電力は共に12円の値上げとなる予定です。4社の1キロワット時当たりの上げ幅は0.04~0.09円となる予定です。
4電力会社は、電力小売全面自由化が開始される今年の2016年4月1日以降、電化住宅向けのメニュー等を規定する「選択約款」についても、電気事業法の規制を受けない自由化部門の料金メニューとなるために、その契約内容の一部を変更する届出を経済産業大臣へ併せて行ったといいます。
電気料金への影響額
電力会社 | 使用電力量1kWh の単価(税込み) |
---|---|
東京電力 | +0.09円 |
北陸電力 | +0.04円 |
中国電力 | +0.06円 |
沖縄電力 | +0.04円 |
標準家庭の1月あたりの電気料金(モデル料金)における影響額
電力会社 | 契約種別 | 使用電力量 | 影響額(税込み) |
---|---|---|---|
東京電力 | 従量電灯B | 290kWh | +26円 |
北陸電力 | 従量電灯A | 300kWh | +12円 |
中国電力 | 従量電灯A | 300kWh | +18円 |
沖縄電力 | 従量電灯A | 300kWh | +12円 |
出典:資源エネルギー庁
それでは、この「地球温暖化対策税」、実際どう使われる予定なのでしょう?
地球温暖化対策税は、どう使われる?
環境省の公示によれば、「地球温暖化対策税」は再生可能エネルギーの導入促進、省エネ対策の抜本的強化等に活用するとされていますが、実際にはいくら程の税収があり何に使われていく予定なのでしょうか?
税収については、初年度(2012年度)には約391億円、今年度(2016年度以降)には何と約2,623億円に上ると見込まれています。
同省が2012年にまとめた「第4次環境基本計画」によれば、この税収を活用し、「省エネルギー対策」、「再生可能エネルギー普及」、「化石燃料のクリーン化・効率化」など、CO2排出抑制の諸施策を着実に実施していく予定、とされています。
具体的には、「リチウムイオン電池などの革新的な低炭素技術集約産業の国内立地の推進」、「中小企業等による省エネ設備導入の推進」、「グリーンニューディール基金(再生可能エネルギー等導入推進基金)等を活用した地方の特性に合わせた再生可能エネルギー導入の推進」等の諸施策が行われることと、使用法については示されています。
ところで、世界各国には「地球温暖化対策税」はあるのでしょうか?
世界の地球温暖化対策税事情は?
「地球温暖化対策税」が日本でスタートしたのは3年前のことですが、フィンランド・ノルウェー・デンマーク・ドイツ・イギリスなどの北欧やヨーロッパ諸国では、1980年代後半に地球温暖化問題が表面化した背景もあり、1990年以降よりCO2の排出削減等を目的とした税がスタートしています。
1990年に、世界で初めて炭素含有量に応じた課税を始めたフィンランドでは、導入時にCO2排出量1トン当たり1.12ユーロ(約112円)であった税率が、今では30倍~60倍に引き上げられているといいます。
また、ドイツやイギリスでは、税収が、温暖化対策のみに活用されているわけではないという点にも注目したいものです。ドイツ・イギリスでは、地球温暖化対策税を、社会保険料の負担軽減に充てているそうです。地球温暖化対策税が、CO2削減という効果から多岐な効果をもたらすべき税としてみなされているのです。
毎回、不定期に施行される電気代の値上がり。その理由については、その都度、しっかり把握しておきたいものです。
参考:
- 地球温暖化対策の税の導入について|環境省
- 東京電力、北陸電力、中国電力及び沖縄電力の 地球温暖化対策税の税率引上げに伴う料金改定の届出について|資源エネルギー庁
- 電気料金プランの見直し及び電気供給約款の変更届出等について|東京電力
- 「消費税」および「地球温暖化対策のための税」の 税率引き上げに伴う電気供給約款等の変更届出について|北陸電力
- 「地球温暖化対策のための税」の税率変更に伴う電気料金への反映および「選択約款」の一部変更に関する国への届出について|中国電力
- 電気供給約款の変更届出等について|沖縄電力