2016年4月の電力小売全面自由化を控え、多くの事業者から電力小売に新規参入することが発表されています。
さまざまな特徴を持ち、他社と差別化をはかった競争が展開されることになりますが、消費者保護や健全な競争を促進するため、電力の小売営業に関するガイドラインが制定されました。
電力自由化を前に行われたパブリックコメントでは「消費者が選択するにあたり、電気の電源構成の表示が不可欠」との意見が多数寄せられ、料金だけではなく「再エネ設備で発電された電気」など、エネルギー源から電気を選びたい意向が強いことが見受けられます。
電気を使う人が、価格以外の要因でも積極的に電気の選択を行うようになることで、より競争的な電力市場の実現が期待されるため、小売事業者が電源構成を開示することが望まれています。
今回は小売営業ガイドラインの中から、電源構成の開示に関する内容を中心にご紹介します。
電源構成の開示
ガイドラインの中では「ホームページやパンフレット、チラシ等を通じて需要家に対する電源構成の情報の開示を行うことが望ましい。」として、電源構成の開示が推奨されています。
基本的な電源構成要素
- 水力発電所(出力3万kW以上)により発電された電気
- 火力発電所により発電された電気のうち、石炭を燃料種とするもの
- 火力発電所により発電された電気のうち、ガスを燃料種とするもの
- 火力発電所により発電された電気のうち、石油その他を燃料種とするもの
- 原子力発電所により発電された電気
- 再生可能エネルギー発電所により発電された電気(FIT電気を除く。)
- FIT電気
- 日本卸電力取引所から調達した電気
- その他
上記の区分けに加え、例えば火力発電の中でも高効率かどうかや、石炭・ガスの中でもどのような燃料かといった点を踏まえた分類をする等、事業者が様々な工夫の中で詳細な説明をすることは問題ありません。
問題となる説明
電気を使う人の混乱や誤認を招き、また事業者の競争条件を歪めるとして、以下のような説明は問題があるとされています。
①電源構成によって、需要家が供給を受ける電気の質自体が変わると誤認されるような表示を行うこと。
一般送配電事業者が維持・運用する送配電網を経由して電気を流す場合、電気は混ざり合って届けられます。
需要家(電気を使う人)が実際に供給を受ける電気は全て均等であり、特定の発電所から電気の供給を受けることはできないという事実を曲げ、電源構成によって需要家が供給を受ける電気の質に差異があるかのような説明をすることは問題となります。
問題のある表現例
- クリーンな電源で発電しているためきれいな電気が届く
- 安定的に発電できる電源を用いているため周波数や電圧が安定している
②開示している電源構成等の情報が、特定の算定期間における実績又は計画であることを明示しないこと。
小売電気事業者の電源構成は時々刻々と変化するものであることから、開示される電源構成について、どの算定期間におけるものであるのかを明示する必要があります。
③電源構成等の情報について、割合等の数値及びその算定の具体的根拠を示さずに情報の開示を行うこと。
電源構成の割合の数値は、他の小売電気事業者の電源構成と比較する際の基本的な情報であるため、電源構成を開示するのであれば、単にイメージ図を掲載するといった方法ではなく、具体的な数値を示す必要があります。
電源構成の算定や開示を行う場合の具体例
「FIT電気」と「再エネ」が分けられているのはなぜ?
前述の「基本的な電源構成要素」で、
- 再生可能エネルギー発電所により発電された電気(FIT電気を除く。)
- FIT電気
とあります。
FIT電気とは固定価格買取制度(FIT制度)によって買い取られた再エネ電気のことですが、「再生可能エネルギー発電所により発電された電気」とは分けられています。
固定価格買取制度では、まだコストが高い再エネの導入を支えるため、初期に導入した発電設備ほど高い価格での買取が約束されます。高い価格で買い取る費用は、電気を利用する全ての人から集めた「再エネ賦課金」でまかなわれています。
電気の需要家(使う人)すべてが費用の負担をしていることから、この制度で買い取られた電気の環境価値は、すでに電気を使う人のもとに帰属しているととらえられます。
そうしたことから固定価格買取制度を利用しない再エネや費用補填を受けていない再エネと区別されるのです。
FIT電気の表示ガイドライン 〜「クリーンな電気」はNG〜
「FIT制度を利用している再エネ」と「FIT制度を利用していない再エネ」を同じように「再エネ」と表示したのでは説明不足なのではないか、また電気を購入する人へ『FITとは何か』といった説明も必要なのではないか、ということで、FIT電気を販売する際はガイドラインで示された説明が必要です。
FIT電気が含まれる電源構成を開示する場合に必要な要件
- 「FIT電気」である点について誤解を招かない形で説明すること
- 当該小売電気事業者の電源構成全体に占める割合を説明すること
- FIT制度の説明をすること
FIT電気が含まれる電源構成を開示する場合に問題となる表現
①上記3要件のいずれか1つでも満たさない説明を行うこと。
なお、3要件を全て満たした上で、「再エネ」や「太陽光」などといった契約上の電源種別の事実を表示・説明すること、「再エネ発電事業者から調達した電気」といった中立的な事実関係を追加的に表示・説明することは問題となりません。
②FIT電気を販売している場合において、「グリーン電力」、「クリーン電力」、「きれいな電気」その他これらに準ずる用語を、個別メニューや事業者の電源構成の説明に用いること。
このような説明は、上記3要件を全て満たしていたとしても、需要家の誤認を招く行為として問題となります。
理由は前述したとおり、FIT電気の環境価値が既に電気を使う人全てに帰属していて、二酸化炭素を排出しないという特性・メリットを特定の小売電気事業者がアピールするのは不適当とされるためです。
②FIT電気について、「FIT電気」以外の曖昧な用語や需要家の誤認を招く用語を用いること。
需要家の混乱を回避する観点から、「FIT電気」は一語として表示・説明することが求められ、これに反する表示・説明は問題となります。
問題のある表現例
FIT(再エネ/太陽光)電気
※「FIT電気(再エネ/太陽光)」のように「FIT電気」を分割しないで一語として表示する必要があります。
時間的に移転した表示の不可
FIT電気の説明時に、時間的に移転した表示が問題となる場合があります。
太陽光発電所で発電する場合など、夜間は発電しない時間帯があるにもかかわらず、昼間に発電した電気を夜間に供給する電気とみなす等の時間的な移転をした表示は問題となります。
ただし、昼間発電した電気を蓄電池を用いて夜間に供給する場合については、異なる時点間で実際に電気の充電・放電が行われているため、問題はありません。
電源構成で電気を選ぶということ
新しく発表される電力プランは「月に300kWh以上使うご家庭でお得」や「使えば使うほどポイントが貯まる」といったプランが多く、省エネ、節電に熱心なご家庭で電気代が下がるというケースはあまりないようです。
現時点で電力会社を変える必要性をあまり感じていない方も多いのではないでしょうか。
「どういった電源による電気か」ということで選択したいという人も少なくないと思われます。
今後どの程度小売事業者から電源構成が開示されるのか、そしてどれだけの人が電気料金でなく電源構成で電気を選ぶのか、注目されます。
参考
「電力の小売営業に関する指針」を制定しました | 経済産業省