太陽光パネルイメージ
2021年11月末に、各電力会社から太陽光発電事業者へ「2022年度以降のFIT制度変更に関するお知らせ」が送付されました。
その中にはパネルの廃棄費用を外部積立することが含まれており、売電金額から源泉徴収的に積み立てられるものです。
2021年9月に廃棄等費用積立てガイドラインが正式に公表され、この内容で実施されることが決まっています。
発電事業者のみなさんに大きな影響があることですので、具体的な疑問を解消すべくご説明します。
※2021年2月に改正案が出された時点で公開した記事に、正式決定後の内容を2021年12月に加筆、修正しました。

パネルの廃棄費用に関するここまでの経緯

太陽光発電事業は参入障壁が低く、他業種の事業者が取り組むことも容易なため、投資物件として急激に増加しました。
発電事業の終了後には解体、廃棄、リサイクルなどをすることになりますが、適切な処分には費用がかかるため、放置や不法投棄されるのではないかという懸念が持ち上がりました。

2017年4月
改正FIT法が施行され、「再生可能エネルギー発電事業を廃止する際の発電設備の取扱いに関する計画が適切であること」が盛り込まれました。
発電時事業終了の際の廃棄計画を盛り込んだ事業計画を立てたうえで、認定を受けることになりました。

2018年7月31日
廃棄費用に関する報告が義務化。
定期報告(運転費用報告)の項目に廃棄費用に関する項目が追加されました。
参考:廃棄費用(撤去及び処分費用)に関する報告義務化について(周知)(資源エネルギー庁)

低圧太陽光を不安視する声の高まり。
積み立てていない事業者が多いことが課題として持ち上がる。

2019年4月11日
太陽光発電設備の廃棄等費用の確保に関するワーキンググループが設置される。
廃棄費用を確実に確保するための制度設計についての検討が始まる。

2020年6月5日
第201回通常国会において、廃棄等費用の確実な積立てを担保する制度等を内容とした再エネ特措法の改正(再エネ促進法)を含む「エネルギー供給強靱化法」が成立。
その中で、事業用太陽光発電事業者に、廃棄費用の外部積立を原則義務化。

このまま決まれば…

2022年7月1日
積立が始まる事業者が出始める(予定)

パネルの廃棄等費用積立の対象者

FIT認定を受けた10kW以上の全ての太陽光発電事業です。
10kW以上であれば全量売電、余剰売電のいずれも含まれます。

FIT買取価格には、廃棄費用も含む必要コストを想定した上で買取価格の設定がされているため、“売電料にはすでに廃棄費用が含まれている”というのが国の認識です。

積み立てる金額

売電金額から積立金を差し引いて支払われる源泉徴収的な積立方法となります。
買取単価ごとに、売電電力量1kWhあたりの「解体等積立基準額」が定められ、「解体等積立基準額(円)」✕「売電電力量(kWh)」が「積立金額」となります。

解体等積立基準額

認定年度※1 調達価格※2
(1kWhあたり)
解体等積立基準額
(1kWhあたり)
2012年度 40 1.62
2013年度 36 1.40
2014年度 32 1.28
2015年度 29 1.25
27 1.25
2016年度 24 1.09
2017年度 入札対象外 21 0.99
[1]入札対象 落札者ごと 0.81
2018年度 入札対象外 18 0.80
[2]入札対象 落札者なし
[3]入札対象 落札者ごと 0.63
2019年度 入札対象外 14 0.66
[4]入札対象 落札者ごと 0.54
[5]入札対象 落札者ごと 0.52
2020年度 10kW以上50kW未満 13 1.33
50kW以上250kW未満 12 0.66
250kW以上 落札者ごと 0.66
2021年度 10kW以上50kW未満 12 1.33
50kW以上250kW未満 11 0.66
250kW以上 落札者ごと 0.66

※1 簡易的に認定年度が記載されているすが、調達価格の算定において想定されている廃棄等費用を積み立てるという観点から、実際には、適用される調達価格に対応する解体等積立基準額が適用される。
※2 調達価格は、記載額に消費税及び地方税を加算した額だが、ここでは加算前の額を記載している。
出典:廃棄等費用積立ガイドライン

積立開始時期・積立期間

FIT買取期間20年のうちの後半10年間
廃棄費用積立期間

  • FIT買取が終了する日から起算して10年前の日以降に最初に検針が行われる日からFIT買取終了まで
  • 「FIT買取が終了する日から起算して10年前の日」が2022年7月1日以前になる事業は、2022年7月1日以降の最初の検針が行われる日からFIT買取終了まで

積立方法

売電金額から積立金を差し引いて支払われる源泉徴収的な積立になります。

  1. 売電金額の支払日に、「解体等基準額(円)」✕「売電電力量(kWh)」の金額を電力会社へ引き渡す。(積立金を差し引いた売電金額が支払われる)
  2. 電力会社は調整交付金の交付日に電力広域的運営推進機関(以下、推進機関)へ引き渡す。(積立金を差し引いた調整交付金が支払われる)
廃棄費用の外部積立の流れ

出典:太陽光発電設備の廃棄等費用の積立てを担保する制度に関する詳細検討④

発電事業者自身で積み立てる方法を選択できないのか?

金融機関の自動積立定期預金などを利用して、自身で積み立てたいという声もあるでしょう。しかし基本的には売電料から源泉徴収的に引かれる「外部積立」をする必要があります。
例外的に、長期安定発電の責任・能力があり、かつ確実な資金確保が見込まれるものとして、一定の厳格な要件を満たす場合に、発電事業者自身での積立(以降「内部積立て」と呼びます)が認められます。
たとえば
・適切な維持管理ができる
・法令を遵守する内部管理体制がある
・責任ある事業運営ができる 等
を示す必要があります。

内部積立てが認められる条件

長期安定的な発電事業の実施に向けた事業計画を作成し、公表すること。
以下の1〜6をすべて満たすこと。

  1. 当該の再エネ発電設備が電気事業法上の事業用電気工作物に該当すること。
  2. 事業計画の事業者が電気事業法上の発電事業者に該当すること。
  3. 積み立てられるべき水準以上の積立の予定が立てられており、公表することに同意すること。
  4. 定期報告のタイミングでしかるべき額の積立がされており、その公表に同意すること。
  5. 金融機関や会計士等により定期的に確認されていること。
  6. 上記1〜5を満たさなくなった場合、すぐ外部積立を行うことに同意すること。
電気事業法上の事業用電気工作物とは

太陽光発電設備は電気事業法上の取扱い上「事業用電気工作物」と「一般用電気工作物」に分かれます。
50kW以上…事業用電気工作物>自家用電気工作物に区分される
50kW未満…一般用電気工作物
参考:太陽電池発電設備を設置する場合の手引き | 経済産業省

「電気事業法上の事業用電気工作物」である必要があり、低圧太陽光はあてはまりません。
電気事業法上、保安規程の届出、主任技術者の選任などの義務がある設備が長期的に発電設備の使用を継続できるような適切な維持管理がされるとみなされています。

「電気事業法上の発電事業者」も、国へのさまざまな届出や電力広域的運営推進機関への加入等の義務があり、法令を遵守する内部管理体制、責任ある事業運営、適正な廃棄等がされるとみなされています。

解体等積立金の取戻し方法

FIT買取期間(20年)終了後に取戻しができます。太陽光パネルの製品寿命は一般に30年程度とされることから、期間中にパネル交換が必要となる場合は少ないとされたため、基本的にはFIT買取期間終了後となります。(例外あり)

推進機関に積み立てられた解体等積立金の全額が取戻し可能です。
ただし、買取期間終了時に一気に全額取り戻せるわけではなく、廃棄のタイミングに合わせて取り戻します。

解体等積立金の取戻し時期と取戻し可能額

1.調達期間終了後に発電事業を終了するとき

FIT買取期間終了後、基礎・架台を含めた発電設備の全体を解体・撤去する場合は、
取戻し時点において推進機関に積み⽴てられた解体等積⽴⾦の額が取戻し可能です。

2.調達期間終了後に発電事業を縮⼩するとき/⼀部の太陽光パネルを交換するとき

FIT買取期間終了後、発電事業を縮小したり一部のパネルを交換して事業を継続する際に、FIT制度の下で設置された当初の太陽光パネルの⼀部が廃棄⼜は交換する場合は、次の各⾦額の中で最も⼩さい額を取戻し可能です。
ア.10年間で積み⽴てられた解体等積⽴⾦の総額のうち認定上の太陽光パネルの出⼒に対する廃棄する太陽光パネルの出⼒の割合に相当する額
イ.取戻し時点で当該認定事業について推進機関に積み⽴てられた解体等積⽴⾦の額
ウ.実際に廃棄等に要した費⽤の額

※ただし廃棄される太陽光パネルが、認定上の太陽光パネルの出⼒の15%以上かつ50kW以上である場合に限られます。

3.調達期間終了後に全ての太陽光電池パネルを交換するとき

FIT買取期間終了後、FIT制度の下で設置された当初の太陽光パネルを全て交換する場合は、
取戻し時点において推進機関に積み⽴てられた解体等積⽴⾦の額が取戻し可能です。
※調達期間終了後に一度も交換していない太陽電池モジュールを全て交換する場合を意味します。

4.調達期間中に発電事業を終了するとき

FIT買取期間中に、基礎・架台を含めた発電設備の全体を解体・撤去する場合は、
取戻し時点において推進機関に積み⽴てられた解体等積⽴⾦の額が取戻し可能です。

5.調達期間中に発電事業を縮⼩するとき

FIT買取期間中に、発電事業を縮小したり一部のパネルを交換して事業を継続する際に、FIT制度の下で設置された当初の太陽光パネルの⼀部が廃棄⼜は交換する場合は、次の各⾦額の中で最も⼩さい額を取戻し可能です。
ア.想定される解体等積⽴⾦の総額のうち認定上の太陽光パネルの出⼒に対する廃棄する太陽光パネルの出⼒の割合に相当する額
イ.取戻し時点で当該認定事業について推進機関に積み⽴てられた解体等積⽴⾦の額
ウ.実際に廃棄等に要した費⽤の額

※ただし廃棄される太陽光パネルが、認定上の太陽光パネルの出⼒の15%以上かつ50kW以上である場合に限られます。

FIT期間中に自然災害などにより事業を終了/縮小したい場合

FIT期間中に、台風や地震により太陽光発電所が大規模に損壊した場合、残念ながら発電事業を断念するケースがあるかもしれません。
廃棄費用は事業開始11年目から10年間かけて積み立てられるため、積み立て前の1~10年目は発電事業者自身が廃棄費用を確保する必要があります。また、積み立て中であったとしても、時期によっては十分に廃棄費用が積み立てられていないことも考えられますので、注意が必要です。
なお、積み立て前・積み立て中の廃棄費用を確保するための手段の一つとして、資源エネルギー庁は「保険加入の努力義務化」をしています。
実際に、廃棄費用不足に特化した保険もあります。詳しくは 太陽光発電設備 廃棄費用&賠償責任保険~努力義務化対応~ をご覧ください。

解体等積立金の取戻しの手続き方法

取り戻しの際には申請書、申請タイミングに応じた添付書類を推進機関に提出します。

  • 申請書
  • 印鑑証明書
  • 認定事業者であったことを証明する書面(認定事業者であった方が取り戻す場合)
  • 認定事業を承継した者であることを証明する書面(承継人が解体等積立金を取り戻す場合)

上記に加え、申請タイミングに応じて以下の書面を提出します。

1.解体等の前に取り戻す場合

解体等を行うことを証する書面及びその費用の額を証する書面
<具体例>
認定事業者が解体・撤去業者へ廃棄などを依頼する内容の契約書写し
(解体等を予定する太陽電池モジュールの量が記載されている必要があります)

2.解体等の後に取り戻す場合

解体等を完了したことを証する書面及びその費用の額を証する書面
<具体例>
・認定事業者等と解体・撤去業者との間で締結された廃棄等を依頼する内容の契約書写し
(解体等を予定する太陽電池モジュールの量が記載されている必要があります)
・産業廃棄物管理表(マニフェスト)の写し
・写真(取り外し前・中・後)
・領収書

廃棄費用外部積立Q&A

実際の廃棄費用が積み立てた金額より安かったら?/高かったら?

廃棄にかかった費用が積立金額より安かったら…
廃棄費用が積立額以内で収まったとしても、積み立てた全額が取戻し可能です。

廃棄にかかった費用が積立金より高かったら…
積み⽴てた解体等積⽴⾦の全額を取り戻し、不足分は認定事業者が負担する必要があります。

FIT買取期間終了後も発電事業を続ける場合の積立金の取戻しはどうなる?

買取期間終了後は、⼀部の太陽光パネルを交換するときも取戻しが認められます。
「一部のパネルを交換・廃棄」「発電規模を縮小」などでパネルを廃棄する際に、パネルを廃棄する割合に応じた金額を取り戻し可能です。
たとえば認定容量の20%のパネルを廃棄する場合、積立金額の20%程度の金額を取り戻すということです。
ただし「認定上の太陽光パネルの出⼒の15%以上かつ50kW以上である場合に限る」とのことで、低圧太陽光の場合は、当初のパネルを交換し終わったタイミングで取り戻すことにりそうです。

発電事業を譲渡する場合、積み立てたお金はどうなる?

該当の案件に対しての積立金は承継されます。
外部積立てを行っていた認定事業者が、認定事業者としての地位を譲渡する場合、積立金を取り戻せる地位が自動的に移転します
譲渡先が廃棄する際に取り戻すことになりますので、それもふまえて譲渡契約を行う必要があります。

解体等積立金の取戻し後、別件に流用していない確認をどうするのか?

解体工事の完了前に取戻しが可能であるため、積立金を取戻した後に解体工事をせずに放置するということもありえるのでは?という疑問が浮かびます。
これを防止するために、

  • 解体工事の前に取り戻す場合、解体事業者との間で契約書が締結されているなど「廃棄等が確実に実施される」と見込まれる場合のみ認めることとする。
  • 解体工事の着工日や工事費の支払日を踏まえて支払う。
  • 廃棄等が適正に実施されたことを確認できる資料等を事後的に提出させる。

といった策が検討されているようです。
もし積立金を取り戻したにもかかわらず実際には適切な廃棄等がなされていない場合は、取り戻した積立金を、再度、積立金の管理機関に積み立てることを求めるべき、とも言及があります。

FIT期間中に発電事業者が倒産したら積立金はどうなる?

発電事業者が倒産した場合、発電事業自体は他の事業者に譲渡され、発電事業者を変更する変更認定を行って、譲渡先の事業者が発電事業を継続する場合が多いと見込まれます。譲渡先の発電事業者に積立て金も承継されることになり、廃棄等費用は継続的に確保されるとされています。
また債権者が積立金を差し押さえた場合であっても、取戻し条件が満たされない限り、積立金は取り戻せず、廃棄されるまで積立金は確保されるとのことです。

参考:

※本記事の情報は投稿した時点のものであり、閲覧されている時点で変更されている場合がございます。あらかじめご承知おきください。