産業用自家消費太陽光発電というと、脱炭素をすすめる取り組みとしてや、被災時の電源確保、電気料金削減、税制特例や助成金も多いなど、多くの導入メリットが思い浮かぶでしょう。
工場をお持ちの需要家さまには、製造業が守るべき「工場立地法」の基準をクリアするためにも、太陽光発電の導入が役立つかもしれません。今回は「工場立地法」についてご説明します。

工場立地法とは?

周囲の環境に配慮して工場を建設するよう決まりや罰則を設けることで、環境破壊や公害を防ぐための法律です。生産施設、緑地及び環境施設のそれぞれの面積の敷地面積に対する割合等、事業者が守るべき基準を定めています。一定規模以上の工場等を新設又は変更する際に、事前に都道府県や市へ届け出ることが義務付けられています。
工場立地法概要

対象となる工場

以下のいずれにも当てはまる工場を「特定工場」といい、工場立地法の届出が必要となります。
業種:製造業、電気・ガス・熱供給業者(水力、地熱、太陽光発電所は除く)
規模:敷地面積9,000m²以上又は建築面積 3,000m²以上

古い工場を建替えるときは

業種や規模が工場立地法の対象となる工場でも、昭和49年に工場立地法が施行される前に建てられた工場(既存工場といいます)は基準を満たしていない場合があります。既存工場が既存生産施設の一部を建替え、生産施設の増設等をする場合は届出が必要です。
とはいえすぐに生産施設や緑地等を工場立地法の基準を満たすよう整備することが困難なことから、既存工場用の計算式(準則計算といいます)で算出した緩和された面積率が適用される特例的な取扱いがあります。
この記事では既存工場以外の基準を主に紹介しますが、ご提案の際には属する自治体などにご確認ください。ここでは“かなり前に建てられた工場は工場立地法の基準に合っていない場合もあるが、建替えなどの際は工場立地法の影響を受ける”ことをおさえておいてください。

既存工場の面積率についてくわしくお知りになりたい場合は「工場立地法 既存工場 準則計算 ◯◯県」等で検索すると、属するエリアの基準がヒットすると思いますので、お試しください。

届出

特定工場を新設または変更する際に、生産施設の面積や緑地の整備状況について、工場が立地している都道府県又は市に対し届出をする義務があります。
届出をしない、または虚偽の届出をした場合は罰則(懲役または罰金)が課せられます。

工場立地法の規制内容

具体的にどのような基準が定められているのか見ていきましょう。

【ご注意】基準は地域により異なる場合も

地域により自然や社会の条件はまちまちですので、国による一律の基準が適切ではないこともあります。地域の実情に応じ、都道府県及び政令指定都市は、別途準則を制定することが可能です。この記事では国の基準を中心に紹介しますが、実施前には属する自治体にご確認ください。

生産施設

生産施設とは、製造工程、発電工程などを形成する機械や装置が設置される建築物(工場建屋)、または、屋外に設置される機械又は装置などの生産プラント(屋外プラント)を指します。

生産施設の基準

生産施設の面積の割合を、敷地の30~65%以内(業種による)とする。

業種によって生産施設の面積の割合が異なります。業種は7つに分類されており、敷地に対する生産施設の面積割合が半分以上でもいい業種もあれば、3割が上限という業種もあります。また生産施設の割合は全国一律の基準です。都道府県や市が別途基準を制定することはありません。

業種別生産施設の割合

業種の区分 敷地面積に対する生産施設の面積の割合
第一種 化学肥料製造業のうちアンモニア製造業及び尿素製造業、 石油精製業、コークス製造業並びにボイラ・原動機製造業 30/100
第二種 伸鉄業 40/100
第三種 窯業・土石製品製造業(板ガラス製造業、陶磁器・同関連製 品製造業、ほうろう鉄器製造業、七宝製品製造業及び人造 宝石製造業を除く。) 45/100
第四種 鋼管製造業及び電気供給業 50/100
第五種 でんぷん製造業、冷間ロール成型形鋼製造業 55/100
第六種 石油製品・石炭製品製造業(石油精製業、潤滑油・グリー ス製造業(石油精製業によらないもの)及びコークス製造 業を除く。)及び高炉による製鉄業 60/100
第七種 その他の製造業、ガス供給業及び熱供給業 65/100

緑地

緑地とは、工場の敷地の土地や建築物施設の屋上に設けられる樹木が生息する区画や、低木や芝などで地面が覆われている土地などを指します。

経済産業省の工場立地法FAQ集を見ると、「容易に移設することができないものに限定される」とありますので、鉢植え、プランターなど容易に撤去できるものは緑地にあてはまらないでしょう。
また「植生、美観等の観点から良好な状態に維持管理されている必要がある」ともありますので、ただ雑草に覆われている空き地、なども緑地と認められないとみられます。

緑地の基準

緑地の面積を敷地の20%以上とする。(ただし、敷地周辺に15%以上配置すること)

※国が定める準則。国による全国一律の準則に代えて適用する準則を、地方自治体は条例で制定可能です。地域によって異なりますので、実施前には属する自治体にご確認ください。

環境施設(含む緑地)

工場立地法でいう「環境施設」とは、

  • 美観の面で整備されている
  • 健康増進や教養文化の向上が図れる
  • 防災対策が推進される

など、工場や周辺の地域の生活環境を保持できるよう管理される施設のことです。
例えば美観の面では公園や噴水、池などが考えられます。健康増進に寄与する運動場、工場に関連する歴史を紹介する◯◯ミュージアムなども環境施設といえます。太陽光発電設備も環境施設に含まれます

環境施設(含む緑地)の基準

環境施設(含む緑地)の面積を敷地の敷地の25%以上とする。

※国が定める準則。国による全国一律の準則に代えて適用する準則を、地方自治体は条例で制定可能です。地域によって異なりますので、実施前には属する自治体にご確認ください。

面積割合まとめ

工場立地法 面積割合
生産施設(工場建屋など)→敷地の30~65%以内(業種による)全国一律
環境施設(緑地含む)→敷地の25%以上(国が定める準則)地方自治体で条例により設定可能
緑地→敷地の20%以上(国が定める準則)地方自治体で条例により設定可能
その他(駐車場、事務所、倉庫等)→規制なし

太陽光発電は一石二鳥の環境施設

太陽光発電設備は工場立地法上の「環境施設」と認められます。
環境施設は、緑地も含めて敷地面積の25%以上(国の基準)が必要ですので、多くの面積を割く必要があります。
屋根上に設置する太陽光発電設備であれば、敷地を割くことなく環境施設割合が増やせるため、自家消費型太陽光発電の一般的なメリットに加え、工場立地法上も有利ということです。
美観や文化、教養、健康増進などもよいのですが、太陽光発電なら工場で使える電気を作ることができ、一石二鳥の環境施設といえるでしょう。

おおまかな面積割合例

太陽光発電の工場立地法への影響を分かりやすくご説明するため、サンプル工場の面積割合をもとにご紹介します。

サンプル工場

工場立地法の対象となる食品工場。
適用される面積割合基準は、
生産施設=65%以内
緑地=20%以上
緑地含む環境施設=25%以上
とします。
サンプル工場の面積割合
事務所や駐車場のほか、芝生や樹木のあるスペースや運動場も設けていて、それぞれの面積割合が、生産設備である工場建屋が50%、緑地が20%、緑地以外の環境施設(この図でいうと運動場)が5%、その他が25%で、この時点では基準をクリアしています。

【ご注意】基準は地域により異なる場合も

地域により自然や社会の条件はまちまちですので、国による一律の基準が適切ではないこともあります。地域の実情に応じ、都道府県及び政令指定都市は、別途準則を制定することが可能です。この記事では国の基準を中心に紹介しますが、実施前には属する自治体にご確認ください。

ケース1 空きスペースがないが事務所を増設したい

事務所用建物を増設したいが、工場建屋、駐車場も減らせないとします。
現状運動場として利用しているスペースに事務所を増設できないかと考えます。
しかし運動場は「環境施設」ですので、無くしてしまうと「緑地を含む環境施設が25%」の基準を満たさなくなります。
ケース1-1

このケースでは太陽光発電を設置すると解決します。太陽光発電設備の設置されている面積は「環境設備」とみなされますので、必要な面積に設置することで基準をクリアできます。

パターン1)運動場部分に事務所を建て、屋根上に太陽光発電設備を設置すれば、環境施設(緑地含む)の面積割合が25%となり、基準をクリアできます。
ケース1-2

パターン2)運動場部分に事務所を建て、駐車場に必要な面積分の太陽光発電設備を設置すれば、環境施設の割合が25%以上となり、基準をクリアできます。
ケース1-3

パターン3)運動場部分に事務所を建て、工場建屋の屋根上に太陽光発電設備を設置すれば、その面積分は環境施設としてみなされます。敷地面積の5%の面積に太陽光発電設備を設置すれば環境施設の割合が25%以上となり、基準をクリアできます。
ケース1-4

ケース2 空きスペースがないが工場建屋を増設したい

工場建屋を増設したいが、事務所、駐車場も減らせないとします。
現状運動場として利用しているスペースへ工場建屋を拡張できないかと考えます。
しかし運動場は「環境施設」ですので、無くしてしまうと「緑地を含む環境施設が25%」の基準を満たさなくなります。

このケースでも、ケース1と同様に太陽光発電を設置することで解決します。
運動場部分に工場を拡張し、屋根上に環境施設として必要な面積に太陽光発電設備を設置すれば、環境施設(緑地含む)の面積割合が25%となり、基準をクリアできます。
工場を拡張する場合
このケースでは元の生産施設の面積割合に余裕があり、工場建屋の拡張が可能でした。
生産施設の屋根上に太陽光発電を設置している面積が、生産施設の面積から差し引かれるわけではありません。工場建屋の面積が太陽光発電設備が載っている面積も含めて基準以下にする必要がありますので注意が必要です。

こんな場合、太陽光の扱いはどうなる?

芝生の上に太陽光発電を導入したら

太陽光発電を提案したが、建物の屋根上には設置できない、環境設備も減らしたくない、遊休地がない、などの理由により、芝生スペースしか設置する場所がない場合はどうなるでしょうか。

太陽光発電設備と重複する緑地は「重複緑地」とされ、緑地として必要な面積の25%までは重複緑地も緑地面積として認められます。緑地は基準ギリギリでもう減らせないが、他に太陽光発電を設置する場所がどうしてもない場合は、面積は限られますが、緑地面積を保って太陽光発電を設置することが可能です。
芝生に太陽光

PPAで太陽光発電を導入したら

基本的には環境施設として必要な面積に太陽光発電設備を導入すればOKですが、自社で所有するのでなく、第三者が所有するPPAで太陽光発電設備を設置する場合も環境設備の面積として認められるのでしょうか?

運用、保守管理をPPA事業者が行ってくれる、ということもPPAで太陽光を導入するメリットですが、工場立地法上の環境施設と認められるためには、工場の管理下にあり、勧告や是正措置命令がなされたときに、 工場側で当該太陽光発電に対する変更等が行える状況である必要があります。
そのため、現時点ではPPAで導入する場合は環境施設とするのは難しいと言えます。
PPAで太陽光

まとめ

産業用の自家消費型は、

  • 脱炭素へのとりくみ
  • 被災時の電源確保
  • 自家消費で電気料金削減
  • 税制特例や助成金も多い

など、多くのメリットがあります。これらの一般的なメリットに加え、製造業の需要家さまには

  • 事務所や駐車場、工場建屋などを作る際、屋根上に太陽光発電を設置すればその面積は環境施設に算入でき、別途環境施設用の土地を確保する必要がない。
  • 緑地の上に太陽光発電を設置しても、一定の割合は緑地として算入でき、スペースを有効活用できる。

といったメリットもあります。工場立地法の基準をおさえつつ、脱炭素やコスト削減に役立つ太陽光発電の導入が進むようぜひご活用ください。

参考:
工場立地法 | 経済産業省
工場立地法FAQ集 | 経済産業省

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