宇宙太陽光発電

持続可能な『未来の再生可能エネルギー』が、いま、世界中で考えられています。そのうちのひとつが、『宇宙太陽光発電』です。
この『宇宙太陽光発電』の研究開発について、日本が世界をリードしていることを知っていますか?
『宇宙太陽光発電』について、宇宙航空研究開発機構研究開発部門で『宇宙太陽光発電システム(SSPS)』の研究開発に携わっている大橋一夫・SSPS研究チーム長へお話をお伺いしました。

宇宙太陽光発電とは?

『宇宙太陽光発電』とは、『宇宙に浮かぶ発電所』のようなもののことです。一辺が2kmとか3kmのソーラーパネルを宇宙に浮かべて、そこで発電した電力を地上に送ります。もちろん、電線で送るわけにはいかないため、電線無しで送ります。このために、宇宙で発電した電力を、『電波』や『レーザー』に変えて地上に送ることになるわけです。

さらに、地上では、『電波』や『レーザー』を再び電力に変えて、家庭や工場で使うという仕組みが必要となります。

宇宙太陽光発電

『宇宙太陽光発電』と地球上での太陽光発電との違いは、何より天候や時間に左右されにくいという点です。地上の太陽光発電では、夜は発電できませんし、曇りや雨の日も発電できません。しかし、地球から離れた宇宙空間には昼も夜も無く、曇りや雨もないため、いつでも太陽光で発電が可能です。また、地上より1.4倍も強度の高い太陽光を利用できるため、同じ面積のソーラーパネルで、宇宙では地上の10倍の太陽光エネルギーを受け取ることができるのです。

宇宙太陽光発電の最大の課題は?

革新的な『宇宙太陽光発電』ですが、課題もあります。大きなものとしては、大量のソーラーパネルなどをどのように宇宙に持っていくか、どのように宇宙で組み立てるか、発電した電気をどのように地上に送電するかなどです。電気の価格も地上の発電所で作るものと競争しなければならないので、建設費用を安くすることも重要です。

また、人体への安全性の確保も課題の一つです。人体への影響がないように、十分に検討を重ねる必要があります。例えば、健康に影響が無いように、宇宙からのエネルギーを受ける場所には、人の立ち入り規制が行われることになります。

よく、エネルギーを受電するためのビームの中を鳥が通ったら焼き鳥になるのではないか?という噂もあるようですが、実際にはそこまで強力ではなく、通ったとしても、少し鳥の体があったかくなるくらいのようです。

マイクロ波無線電力伝送地上実験の成功が話題になりましたが?

『宇宙太陽光発電』の実現に向けて、今年(2015年)の3月に成功をおさめ、多くのメディアにも取り挙げられた「マイクロ波無線電力伝送地上実験の成功」は、実現に向けた大きな区切りになりました。

今回行った実験は、送電部からマイクロ波という一種の電波を、約55m先の受電部まで電線無しで送り、受電部のアンテナで受けてから、それをもう一度電気に戻して使う、というものです。

その折に、地元のアマチュア無線家の協力を得て、その電力を使った無線機により、日本全国の283局のアマチュア無線家と交信できました。宇宙太陽光発電システムの実現に向けて、大きな前進材料になりました。

宇宙に浮かぶ発電衛星は、一辺が2kmとか3kmの大きさになるのですが、重さが1万tから2万tです。油井さんが行った国際宇宙ステーションの重さは340tほどですから、その50倍ほどもある大きな衛星なのですが、1平方メートルあたりに換算すると、4kgほどで、厚さ4mmのベニヤ板と同じくらいです。このように軽いのは宇宙に大量に運ぶためには、とても軽く作らないといけないためです。

そんな『やわ』な板が一辺2kmとか3kmの大きさになると、宇宙は無重力ですから浮いていることはできますが、太陽の熱や地球の重力の影響で、反ったり曲がったり、つまり変形します。送電アンテナが変形すると、曲がった鏡のようなもので、地上に向けて正しくビームを送ることができません。そこで、専用の電子回路を使い、送電アンテナが変形しても正しくビームが送れるように補正する『しくみ』を設けてあります。この『しくみ』のおかげで、発電衛生から地球までの長い距離でも正確に電気を送り届けることができるようになります。

今回の実験では、わざと送電アンテナを変形させておいて、約1800Wの電波を発射し、その補正なしの状態では95W程度しか取り出せなかった電力を、補正を行うことで340W取り出すことができ、この『しくみ』がうまく働くことが確認できました。

マイクロ波無線電力伝送地上実験の宇宙太陽光発電以外での活用用途は?

電波やレーザーを使って無線で電力を送る技術は、宇宙太陽光発電以外でも使えます。特に、電線で電力を送ることが難しい場合に役に立つでしょう。移動する物体、例えば無人航空機とか、月面の日陰のクレーターの底や縦穴の中を探査する探査機に電力を送る場合が、それに当てはまります。

そのような宇宙太陽光発電以外での応用先で、徐々に距離と電力を大きくしながら実用化を進めていき、無線で電力を送る技術を積み上げていくことで、宇宙太陽光発電の実現を目指していく予定です。

宇宙太陽光発電の実現はいつごろ?

巨大な発電衛星を宇宙に作るためには、1万tから2万tの物資を打ち上げる必要があります。1回50t(スペースシャトルの搭載貨物量の倍)を打ち上げるとしても、300回以上です。1年間で発電衛星を作ろうとするならば、毎日1回、このような超大型のロケットを打ち上げなければなりません。また、打上げ費用も、現在のH-IIA/H-IIBの50分の1程度まで下げる必要があります。そのためには、何度でも繰り返し宇宙と地上を往復できる、超大型の再使用型宇宙往還機が必要になります。

ロケット

このような超大型の宇宙往還機の実現時期は、現在のところ、2040年代以降と考えられています。現在開発しているH3ロケットが飛ぶようになって、その次に小型の宇宙往還機が開発されて、さらにその次に大型の宇宙往還機が開発される流れを辿るとすれば、超大型の宇宙往還機の実現時期が大幅に早まる可能性は低いでしょう。

宇宙太陽光発電が実現すれば、どんな可能性が広がる?

宇宙太陽光発電を実現するための発電衛星や、それを打ち上げるために必要な超大型の再使用型宇宙往還機については、数兆円~数十兆円という、とても大規模な開発計画になりますから、現在の『国際宇宙ステーション』と同様に、国際共同開発になる可能性が高いと思います。

もしそれが実現される時代が来れば、太陽発電衛星は、国境に関係無く、宇宙から地上のいろいろな場所にエネルギーを送ることができるわけですから、現在のように電気を作る人も使う人も、同じ国の中に限定される、という制約は無くなります。

世界中の人々が力を合わせて、宇宙にどんどん活動領域を広げるとともに、宇宙からの再生可能エネルギーで世界中の人々がつながる社会が実現される時代がやがて来るでしょう。

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