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電気は基本的に貯めることができず、「同時同量」といって、電力消費量と供給電力量を常に一致させ続ける必要があります。
電力需給が逼迫している時間帯に節電して需要を減らせば、いわば発電所で焚き増しするのと同じ効果が得られ、需要家(電気を使う人)側からも需給バランスを取ることが可能です。
こうした電力を取引する「ネガワット取引」についてご説明します。

参考:同時同量については以下のページでも解説しています。

今さら聞けない「出力制御」〜なぜ出力制御が必要なのか?〜

ネガワットとは?

ネガワット(negawatt)とは、需要家の節電により余った電力を、発電したことと同等にみなす考え方で、「節電所」とも呼ばれます。

ネガワットの考え方により、「節電」を「善意」だけでなく「ビジネス」目的に取り組むことが可能になります。
電力会社としても、ピーク時のために新たな発電設備を準備し、需要が少ない時期には稼働しないといったリスクを回避できる利点があります。

デマンドレスポンスで需要家が電力消費量を調整

デマンドレスポンス(Demand Response、ディマンドリスポンスと言われることも)とは、電気の供給量に合わせて需要家が電気の消費を抑制することで、電力需給逼迫時の対策の1つです。略してDRとも呼ばれます。

デマンドレスポンスには、主に「電気料金型」「インセンティブ型」の2つの手法が用いられます。

電気料金型デマンドレスポンス

「時間帯別料金」「ピーク時料金」など、電力需要ピーク時の料金を割高にし、家庭や会社で電力消費を抑制するよう促す手法です。
比較的簡単に大多数に適用できるメリットがある反面、その時々の需要家の反応はまちまちであり、効果が不確実というデメリットもあります。

インセンティブ型デマンドレスポンス

あらかじめ電力会社と契約を結んだ需要家が、電力需給逼迫時に電力会社からの要請に応じて節電し、その節電量に応じてインセンティブが得られるしくみです。
契約を結んで行うため確実な効果が期待できますが、電気料金型と比べ手間がかかり、大多数に適用するのは難しい手法です。

出典:経済産業省 | デマンドレスポンス(Demand Response)について 

出典:経済産業省 | デマンドレスポンス(Demand Response)について 

デマンドレスポンスで生まれたネガワットを活用「ネガワット取引」

デマンドレスポンスにより生まれた電力「ネガワット」を、電力会社が買い取ったり、市場で売買されることを「ネガワット取引」といいます。

ネガワット取引は、多数の需要家を束ねてまとまった規模の供給力として提供する「アグリゲーター」と呼ばれる事業者が、電力会社からの節電要請と、報奨金のやりとりを仲介する方法が考えられます。

出典:資源エネルギー庁 | ネガワット取引の普及に向けた取組

出典:資源エネルギー庁 | ネガワット取引の普及に向けた取組

一部の新電力は、

  1. 電力市場価格高騰時の電力の市場調達コストの抑制
  2. インバランスの回避
  3. 電力小売サービスとしての他社との差別化

などを目的として、既に法人向けのサービスとしてネガワット取引を展開しつつあります。

今後2016年4月の電力小売全面自由化を迎え、小売部門の供給力として、又は他社との差別化ツールとして、ネガワット取引の活用が進む可能性があります。また、送配電事業者が公募などにより公正・透明に調整力(ネガワット含む)の調達を行うことが期待されています。

政府もネガワット取引の普及に乗り出す

経済産業省は、2016年4月の電力小売り全面自由化後にネガワット取引を全国に普及させる考えで、2015年3月には「ネガワット取引に関するガイドライン」を策定しました。

ネガワット取引ガイドラインの内容

ネガワット取引が行われる際に想定される問題について指針をまとめたものが「ネガワット取引ガイドライン」です。

(1)ベースラインの設定方法

需要削減量の算定は、節電要請がなかった場合の電力消費量(ベースライン)と実際の電力消費量の差分となります。
ベースラインは推計によって以下の原則で設定されます。

  • 反応時間・持続時間が比較的長いデマンドレスポンス
    過去の需要データから推計する
  • 反応時間・持続時間が比較的短いデマンドレスポンス
    実施時間帯の前後の需要量から推計する
出典:資源エネルギー庁 | ネガワット取引に関するガイドライン(概要版)

出典:資源エネルギー庁 | ネガワット取引に関するガイドライン(概要版)

(2)需要削減量の測定方法

「需要削減量」の測定方法の細則として、「需要削減量の評価対象期間」、「需要削減量の評価単位・評価方法」、「計測方法に関する要件」を規定しています。

(3)その他の事項

ネガワット取引の実施に当たって定めるべきその他の事項として、「需要家やアグリゲーターへの報酬」、「需要家やアグリゲーターへのペナルティ」、「需要家に電力供給を行う小売事業者への補填」を規定しています。

報酬については、基本的には関係事業者が定めるべきとし、

  • 同時同量の遵守といったネガワット取引を行う目的
  • 卸電力取引市場の取引電力価格
  • ネガワット取引による需要削減の確実性

等を総合的に勘案して算出されることを想定されています。

ペナルティについても、基本的には関係事業者が定めるべきとし、

  • 約束した需要削減量に対して実際の需要削減量が一定程度以上
    乖離した場合に、乖離した量や回数の程度に応じて、報酬を支払わない/報酬を返金させる/制裁金を課す
  • 乖離の程度が大きい場合にはネガワット取引に係る契約を破棄する

といったペナルティを課すことを想定されています。

電力システム改革が進むとますますネガワット取引が活発に

北陸電力では、節電要請に応えると料金を割引く「節電とくとくプラン」を発表しました。
事前に告知された節電実施日時に節電することによって電気料金が割り引かれるというものです。
このような一般家庭向けのデマンドレスポンスのプランは他にはまだありませんが、電力小売り全面自由化後、差別化などの目的で他社からも出てくるかもしれません。

また2020年には、電力システム改革が進み「リアルタイム市場」が創設される計画です。そうなれば需給調整力としてネガワットが取引される環境が整い、よりネガワット取引が活発になることが見込まれます。

以上、ネガワット取引について紹介しました。効率よい電力システムの実現のため、ますます普及することが期待されます。

参考

※本記事の情報は投稿した時点のものであり、閲覧されている時点で変更されている場合がございます。あらかじめご承知おきください。